東芝は、大きさが手のひらサイズで最長300mの距離計測を可能にする「LiDAR」を開発した。投光器を小型にできる「モジュール実装技術」および、全ての投光器を同じ向きにそろえる「モーター制御技術」を新たに開発することで実現した。
東芝は2022年3月、大きさが手のひらサイズで最長300mの距離計測を可能にする「LiDAR」を開発した。投光器を小型にできる「モジュール実装技術」および、全ての投光器を同じ向きにそろえる「モーター制御技術」を新たに開発することで実現した。開発した投光器の使用台数や配置の方法によって計測範囲を自由に変更できる。このため、自動運転の他、インフラ監視などへの適用も可能となる。2023年度の実用化を目指す。
LiDARは、投光ユニットや受光ユニットなどで構成され、照射したレーザー光が周辺にある物体に反射して戻るまでの時間を計測し、物体までの距離を測定する技術である。測距や物体を検知するセンサーとしてはLiDARの他、「超音波」や「ステレオカメラ」「ミリ波レーダー」などを応用した製品がある。これらは主に、自動運転などを支援する車載システム用として開発が進んでいる。
東芝が開発しているLiDARは、暗い道路などでも落下物や積雪、崩落など路面の状態を高い精度で検知することができる。このため、定点でのインフラ監視など、自動運転以外に活用することが可能となる。こうした中で東芝は、より小型で低コストのソリッドステート式LiDARの実現を目指し、実装技術を含めて新たな受光技術や投光技術の開発を行ってきた。
2021年6月には、体積が350cm3と小さく、計測距離は最長200mのLiDARを開発した。そして今回、LiDARを構成する投光器を小型化するための実装技術と、複数の投光器を組み合わせた時に、内蔵されたモーター同士を同期させるための制御技術を開発した。これによって、JIS規格「JIS C 6802」で定められているレーザーの安全規格「アイセーフ」に準拠しながら、長距離性能を可能にした。
投光器の小型化に向けて、新たに開発したのがモーター制御基板である。回路のレイアウトを工夫することで、基板面積は10cm2となり、従来に比べ60%も削減した。レンズの配置も工夫している。光路を折り曲げることで、レンズ部の体積を小さくした。この結果、投光器の体積を71cm3まで小さくすることができた。このサイズは従来の4分の1である。
長距離の計測に対応できるよう新たに開発したのは、複数のモーターを同期させて制御する技術である。対象物の形状や位置を計測する場合、投光器内のポリゴンミラーを高速回転させながら、レーザー光を連続的に射出する。
東芝は今回、小型化した投光器を複数台用いて、レーザー光を同一方向に射出し、レーザー光を重ね合わせることで、アイセーフに準拠しながら、計測距離を延ばすことにした。そこで、各投光器に内蔵されたポリゴンミラーの回転速度と回転角度を同期させる技術を開発した。具体的には、回転角度と回転速度および、電流を制御する3重制御ループを開発し、複数ポリゴンミラーの同期ずれ(角度)を0.02度以下とした。
実験では、体積が71cm3の投光器を2台実装した計測装置(体積は206cm3)を用意し、アイセーフに準拠したレーザー光で、300m先まで高精度に計測できることを実証した。解像度は1200×84(画角は24×12度)である。理論的には、投光器の台数を増やせば、計測できる距離を√倍(例えば2台で√2倍、3台で√3倍)で延ばすことができるという。
投光器の数や配置などを変えれば、「長距離」対応や「広角」対応など、計測範囲をカスタマイズすることも可能で、さまざまな用途に適用できる。
今回開発した投光器は、ポリゴンミラーを高速回転させるためにマイクロモーターを搭載しているが、今後はMEMSミラーの開発/採用などにより、ソリッドステート式LiDARを実現していく計画である。
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