サプライチェーンを再構築するためには、材料源を増やすだけでは不十分だ。米国では、熟練労働者の教育も不足している。
Weber氏は、「製品を世に出していく上で、十分な人材を雇用することができない」と述べる。
Weber氏やKelly氏が米国政府に期待しているのは、包括的な解決策である。
Kelly氏は、「教育への投資だけでなく、民間産業への投資も必要だ。持続可能な要求信号を作り出す必要がある」と述べている。
「例えば防衛関連事業の場合、3カ月間にわたって製造施設の膨大な生産能力を必要とするような大量注文を受けたとしても、次の年にもう一度同じ規模の発注を受けるとは限らない。もしそれが誘導ミサイルであれば、毎月のように製造することはないだろう。持続可能な産業を創出するためには、このようなあらゆる事例について検討する必要がある。それが投資であり、インセンティブである」(Kelly氏)
さらにWeber氏は、「一部の投資には、官民パートナーシップが必要だ。半導体業界には官民パートナーシップがあり、その一部はエコシステムのために確保されているが、それでは不十分だと思われる」と指摘する。
Weber氏は、「世界最大の中国PCB業界が、海外に移行することはないだろう」と述べる。
「中国PCB業界は、国内で継続していくとみられる。中国市場はこれまで、国内で維持していけるような方法で発展してきた。中国政府が市場を助成し、エレクトロニクス分野の中でも特に回路基板市場への投資が重点的に行われている」(Weber氏)
TTM Technologiesの製造拠点は、中国に6カ所と米国に18カ所あるが、同社の売上高の大半は、中国拠点が占めているという。
Weber氏は、「ただ単に中国から離れることはできない。全世界に幅広いエコシステムを構築する必要がある。ただ、特に米国では国家安全保障について検討する場合、米国内での投資が、世界市場の持続可能性をサポートすることになると考える必要がある」と述べる。
その一方で、現在では輸送コストが急増している。PCBを搭載したコンテナ1台をアジアから米国に輸送する場合、以前は2500米ドルだったコストが、現在では2万5000米ドルにまで跳ね上がっている。Weber氏らは、「米国内におけるPCBの安定供給の構築をサポートできなければ、国内半導体製造のための数十億米ドルの政府インセンティブは、何も成し遂げられないことになる」との見解を示す。
Kelly氏は、「国民からは、『520億米ドルを投じながら、問題の根本的な原因を解決することができなかったのか』との声が上がるだろう」と述べる。
業界関係者は、エレクトロニクス業界のエコシステムの複雑さを理解し始めたばかりの政府は、半導体工場の建設に重点を置き過ぎていると語る。
インセンティブや支援金をどう配分するかは、主に米国商務省が決定するが、匿名を希望するある業界関係者によれば、商務省にはエレクトロニクス業界に関する専門知識が不足しているとの懸念を示す。
同関係者は、Intel、Samsung Electronics、TSMCといった半導体メーカーやファウンドリーは、欧米での生産コストがどれほど高くなるかを評価しているさなかのため、米国のインセンティブを望んでいるとする。
米国の半導体産業に対する優遇措置の法案では、先端パッケージング技術に約25億米ドルを割り当てることになっている。関係者によれば、そのうちごく一部がPCBメーカーに割り当てられる可能性があるという。
米国議会では、上院、下院それぞれの半導体支援策を調整する必要がある。半導体支援に向けた法案は超党派の強い支持はあるが、米国では2022年に中間選挙を控えているため、法案の成立は2022年末までずれ込む可能性もある。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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