具体的には、半導体の品質情報や診断情報を、SEMIが標準化したブロックチェーンに書き込み、サプライチェーンのプレイヤーが参照できるような仕組みを構築する。トレーサビリティを素早く行い、サプライチェーンの途中で不正に入り込むデバイスを発見して排除することを狙う。
半導体の後工程(半導体メーカーあるいはOSAT[Outsourced Semiconductor Assembly & Test])で検査が完了すると、デバイスのパッケージに型番やシリアル番号などが刻印される。その段階で、デバイスのデータを、自社のデータベースだけでなくブロックチェーンにも書き込む。
従来、例えば自動車メーカーが、モーターに搭載されている半導体デバイスのトレーサビリティを実施するには、まず車両の識別番号(ID)からモーターのIDをたどり、そこからモーターメーカーに問い合わせてPCBのIDを特定。次にモーターメーカーが、PCBの実装を行ったメーカーに問い合わせて、PCBに搭載されている半導体デバイスのIDを特定、そのIDを基に半導体メーカーに問い合わせるという、“バトンリレー”を行う必要がある。
それに対して、SEMIが作成中の規格では、サプライチェーンのプレイヤーが自由にブロックチェーンに問い合わせることができる。半導体デバイスのID、PCBのID、モジュールのID、最終製品のID情報を自社のデータベースに持っていれば、直接ブロックチェーン上のデータを参照することで、バトンリレーをすることなく、デバイス/部品の品質証明や出荷履歴などを素早くでたどれるようになる。
ブロックチェーンを用いる理由としては、データの改ざんが極めて難しいことが挙げられる。分散型台帳技術の一つであるブロックチェーンは、改ざんしようとしても書き直す箇所が多すぎて、データの修正(改ざん)は事実上不可能だ。その他、半導体のサプライチェーンに関わる多様なメーカーが参加しやすいこと、サーバ依存性がないP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークなのでシステムダウンの可能性が低いこと、大規模なサーバを持たないためサーバ費用や保守点検費用が抑えられ、ランニングコストが安価であるという利点もある。
トレーサビリティだけでなくサプライチェーンの管理においても、可能性が広がると角淵氏は語る。例えば現在、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、カーボンフットプリントや原材料、生産地などの情報を求められることがある。そうした情報も、半導体デバイスの情報にひも付けてブロックチェーンに書き込むことで、企業が情報を確認しやすくなる。さらに、半導体デバイスに関連する情報を正しく、素早く入手できるようになることは、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化にもつながる。「企業グループや業界、国を超えてブロックチェーンにアクセスできる仕組みができれば、半導体デバイスの真偽判定や調達に関する情報の混乱を抑えることができ、それが最終製品の産業強化につながるのではないか」(角淵氏)
なお、実際の運用については、「コンソーシアムなどを作って普及していく必要がある」と角淵氏は述べた。
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