SiC(炭化ケイ素)は、スイッチング周波数やジャンクション温度が高いことから、今や自動車業界においてSi(シリコン)IGBTデバイスの後継になる存在として認識されるようになった。しかし電動化というテーマは、自動車に始まり自動車で終わる、というわけではない。本稿では、幅広い市場での拡大が見込まれるSiCのポテンシャルについて考察する。
SiC(炭化ケイ素)は、スイッチング周波数やジャンクション温度が高いことから、今や自動車業界においてSi(シリコン)IGBTデバイスの後継になる存在として認識されるようになった。さらに、自動車業界は過去5年ほどの間に、SiCベースのインバーターの試験場としての役割を担うようになっている。SiCコンバーターでDC-ACの基本的な電力変換を行うことにより、Siコンバーターと比べて小型化や軽量化、高効率化を実現できることが実証されたため、自動車業界では今後、ワイドバンドギャップデバイスの可能性が大きく広がっていくとみられる。
しかし電動化というテーマは、自動車に始まり自動車で終わる、というわけではない。トラックやバス、船舶などの幅広い種類の輸送用途や、電車や飛行機のさらなる電動化も視野に入ってくるだろう。また供給側では、低炭素エネルギーを生成/供給する上で、グリッド接続された太陽光発電システムや、高電圧直流送電(HVDC)を経由したエネルギー輸送などが重要になっていくとみられる。
このようなさまざまな用途全体の共通テーマとして挙げられるのが、より高いシステム電圧と、それに伴う高電圧のパワーデバイスの潜在的役割である。電気自動車(EV)の場合、400Vから800Vへの移行が進むことで、主なメリットとして、充電速度の高速化を実現できるようになる。太陽光インバーターでは、1000Vから1500Vへのシステム移行が進むと、ストリングやインバーター、ケーブル、DC接続ボックスなどの数を減らすことができるため、その結果、高効率化や低コスト化の実現へとつながる。ギガワットHVDCを構築する場合、公称電圧が数百キロボルトで、個々の素子定格が高いため、マルチレベルスタックに必要なデバイスの数を削減でき、メンテナンスや全体的なシステムのサイズも縮小することが可能だ。
SiCパワーデバイスはこのような各分野において、成功への鍵となる潜在的可能性を秘めている。しかし現在、市場に出回っているSiCデバイスの耐圧の範囲は650〜1200Vと非常に狭く、1700Vのデバイスも多少ある、という程度だ。技術的には3300Vまで実現可能とされているが、現在この電圧レベルのデバイスを供給しているのはGeneSiCとMicrochip Technologyだけだ。
もちろん、自動車向けデバイスを提供することに特化していくのは理解できる。自動車業界で市場シェア獲得を巡る競争が展開されたことにより、さまざまなメーカーが、キャパシティーの増大や、200mmウエハーの導入、歩留まりの向上などを巡って競争を繰り広げるようになった。このため、比較的規模が小さい高電圧市場を開放していく上で必要とされる膨大な研究開発活動が、十分に行われていないという状況が起きている。
幸いなことに、これまで研究部門において熱心な取り組みが進められ、高電圧SiC技術を手掛ける数々の企業が設計や製造、試験を行い、SiCスーパージャンクション(SJ)MOSFETやIGBT、サイリスタなどがこれらの高電圧アプリケーションに与える影響について、より良く理解できるようになってきた。
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