東北大学は、酸化ルテニウムを用い、反強磁性磁気秩序によって生成される、全く新しい「スピン流生成現象」を発見した。この現象を応用して、外部磁場を必要としない垂直磁化の反転を実証した。
東北大学大学院工学研究科の輕部修太郎助教、田中貴大氏(博士前期課程)、好田誠教授、新田淳作名誉教授らは2022年9月、酸化ルテニウム(RuO2)を用い、反強磁性磁気秩序によって生成される、全く新しい「スピン流生成現象」を発見したと発表した。この現象を応用して、外部磁場を必要にしない垂直磁化の反転を実証した。
スピントロニクスは、「電荷」と「スピン(磁性)」の自由度を積極的に活用する。磁気の流れであるスピン流は、磁性体中の磁化に有限なトルクを与えることができ、垂直磁化膜の磁化反転に用いられている。しかも、スピン流は白金やタングステンなどの重金属中に電流を流すだけで作り出すことが可能である。
ところが、スピンホール効果で作り出される従来のスピン流は、印加電流方向によってスピン偏極方向が決まる。このため、磁化を駆動するトルクは発生するが、外部磁場のアシストがないと磁化反転を誘起することはできなかった。
研究グループは今回、RuO2のルチル結晶構造と、反強磁性磁気秩序によって発現する「スピンスプリッター効果」に起因するスピン流生成の原理を発見した。スピンスプリッター効果は、反強磁性磁気秩序のみに依存するため、スピン軌道相互作用は必要がないという。
実験では、高い品質のRuO2薄膜結晶を作製し、(100)や(101)、(001)といったさまざまな面方向のスピン流生成現象を調べた。この結果、RuO2(101)面でx方向に電流を印加するとx、y、z方向の全方位に対して、スピン偏極したスピン流を生成できることが分かった。しかも、電流印加方向と磁気秩序方向(ネールベクトル方向)の相対角により、異方的なスピン流が生成されることも明らかとなった。
研究グループは今回の成果を用い、外部磁場なしで磁化反転を実証することに成功した。さらに、反転信号の大きさは、印加する電流量によって変えられることも明らかにした。それはRuO2の交換バイアスにより、隣接磁性層の垂直磁化が多磁区化。それによって部分的に磁化反転が生じて、多値(アナログ)的出力となるためだという。この特性は、「ニューロモルフィックコンピューティング」に応用できるとみている。
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