東北大学は、東京電機大学との共同研究により、磁性原子がはしご状に配列した「スピンはしご系銅酸化物」の配向成膜技術を開発した。この技術を電子デバイスに応用すれば効率的な排熱制御が可能になるという。
東北大学は2022年8月、東京電機大学との共同研究により、磁性原子がはしご状に配列した「スピンはしご系銅酸化物」の配向成膜技術を開発したと発表した。この技術はスパッタリング法による低温での成膜を可能にした他、高い熱伝導性を有するはしご面を、基板に対し平行に堆積することができる。電子デバイスに応用すれば効率的な排熱制御が可能になるという。
スピンはしご系銅酸化物は、イオンがはしご状に並んだ独特な層状構造となっており、はしご面に沿って熱が高速に移動するという。この時、熱が伝わる方向や伝わりやすさを適切に制御することができれば、発熱などによる電子デバイスの誤動作や故障を防ぐことができる。
こうした中で研究グループは、スピンはしご系銅酸化物の中で室温熱伝導率が最も高い「La5Ca9Cu24O41」(以下、LCCO)に注目してきた。ところがLCCOは、成膜工程でスパッタリング法を用いると、はしごの向きがそろわず、十分な熱伝導性を得ることができなかったという。
今回の研究では、LCCOの配向構造を生み出す成膜条件を調べ、さまざまな操作パラメーターの中から、「基板温度」がキーパラメーターであることを突き止めた。
実験では、石英ガラス基板の温度が350〜450℃の時、(0k00)面由来のピークのみが現れた。X線回折理論によれば、熱伝導の高いはしご面が基板に対して平行に堆積していることを示すものだという。また、観察した透過型電子顕微鏡像や電子線回折パターンから、柱状成長した単結晶ドメインの存在を確認することができたという。
約400℃における柱状配向構造は、単結晶シリコン基板上のLCCOでも確認することができた。基板温度と柱状構造の関係については一般的な薄膜成長モデルで、配向構造については、はしご面を形成する銅と酸素の強い結合力と低い表面エネルギーによって、それぞれ説明することができるという。
はしご面の高い熱伝導は、「マグノン」と呼ばれる銅イオンの電子スピン由来の特殊な粒が起源だという。ラマン分光でマグノンの存在を確認した。
今回は、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻 藤原研究室の渡辺祥太氏(研究当時は博士前期課程)、寺門信明助教(研究当時はJSTさきがけ研究者兼任)、藤原巧教授の研究グループと、同大学院工学研究科技術部の宮崎孝道博士および、東京電機大学の川股隆行准教授(研究当時は東北大学助教)らによる共同研究の成果である。
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