東北大学の研究グループは、アルカリ溶液を用いる手法で、スピン熱伝導物質をナノシート化することに成功した。熱の流量を制御できる「熱伝導可変材料」の開発や、熱制御デバイスへの応用が期待される。
東北大学の研究グループは2022年10月、アルカリ溶液を用いる手法で、スピン熱伝導物質をナノシート化することに成功したと発表した。熱の流量を制御できる「熱伝導可変材料」の開発や、熱制御デバイスへの応用が期待される。
研究グループは、熱伝導可変材料の開発に取り組む中で、スピン熱伝導物質の「La5Ca9Cu24O41」(以下、LCCO)に注目してきた。熱キャリアとして機能する「マグノン」によって、室温におけるスピン熱伝導率を「高い状態」や「低い状態」に制御できると予想されているからだ。ところが、電気的制御が可能な領域は、厚みが数nmの範囲に限られているという。
そこで研究グループは、スピン熱伝導物質のナノシート化に取り組んだ。まず、LCCO微結晶粉末を合成した。この粉末と10種類近くの酸性、中性および、アルカリ性水溶液との反応性と反応生成物が、ナノシートを含んでいるかを調べた。
この結果、アルカリ性のNaOH水溶液を用いれば、厚みが3nm以下という短冊型シート状物質を作製できることが分かった。透過型電子顕微鏡を用いた検査により、この物質がLCCOナノシートであることを確認した。
研究グループによれば、「厚み3nm以下のナノシートが形成される機構については、完全に解明されていない」という。なお、今回の研究では、数mm角の単結晶試料を機械研磨して、厚みが約100nmの短冊形シート状物質を形成することにも成功している。
スピン熱伝導物質は、ラマン分光でマグノン由来の特徴的な幅広いピークを示すという。今回試作したナノシートでも、この観察に成功したという。
今回の研究成果は、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻藤原研究室の木下大也氏(研究当時は博士前期課程)、寺門信明助教(研究当時はJSTさきがけ研究者兼任)、藤原巧教授、同大学院工学研究科技術部の宮崎孝道博士、同大学院工学研究科応用物理学専攻の川股隆行助教(現在は東京電機大学准教授)らの研究グループによるものである。
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