先端ロジックのトランジスタは、構造が複雑なCFETがつくれるかという問題はあるが、選択肢が他にも幾つかある。ところが、Cu配線の微細化とともに、その配線抵抗が増大する問題は深刻である。
図8に、Cu配線の微細化に伴う配線抵抗の増大のメカニズムとその深刻さを示す。Cuのバルク抵抗は、配線が太くても細くても一定である。ところが、Cu配線幅が縮小してくると、Cuのグレインバウンダリで電子が散乱し、さらに電子はCu配線を包み込んでいるTaNバリアメタルの表面に衝突する。ここで、Cuは絶縁膜中を拡散してしまうために、TaNなどのバリアメタルが必要不可欠になっている。
このような電子のCuのグレインバウンダリやサイドウオールによる散乱が、Cu配線の抵抗を増大させてしまう。加えて、Cu配線幅が縮小するとともに、TaNバリアメタルの配線抵抗も無視できなくなる。というのは、Cuの拡散をバリアするためには、ある一定の厚さのバリアメタルが必要だからだ。
このような事情から、微細配線をCuから別の材料に変えようという動きがある。図5に示したimecのロードマップにも、1.5nm付近で、Cu DamasceneからMetalの直接加工にすることが書かれている。
そして、2022年のVLSIシンポジウムでも、TSMCが微細配線について、Cu Single Damasceneから、Metal RIE+Airgapに変更する可能性が示唆された(図9)。ここで、RIEとはReactive Ion Etchingの略で、メタル材料を直接加工することを意味する。
TSMCは直接加工する微細配線のメタル材料を明らかにしていない。しかし、imecはその材料がRu(ルテニウム)であることをことし(2022年)のVLSIシンポジウムで発表した。恐らくTSMCにおいても、Ruが第1候補であると思われる。その根拠を以下に示す。
図10に、微細配線材料の候補の比較を示す。微細配線の抵抗は、その材料の抵抗率ρ(μΩcm)と電子の平均自由行程(nm)の積で決まる。このρ×λが小さいほど、微細配線の抵抗は低い。となると、ρ×λが6.7のCuより、Nb(ニオブ、3.8)、Ru(5.14)、Mo(5.98)の方が、微細配線としては有利であることが分かる。
加えて、Electro Migration(EM)と呼ばれる不良への耐性は、その材料の融点が高いほど良い。すると、融点が1085℃のCuより、2477℃のNb、2334℃のRu、2623℃のMoの方が有利である。なお、EMとは、電子が配線やビアを流れる際に、その繋目やグレインバウンダリに空間(ボイド)ができてしまう不良である。
以上から、配線抵抗とEM耐性の二つの観点から、Cuよりも、Nb、Ru、Moの方が、微細配線材料として有利であることが分かる。しかし、この三種類の材料で、Nbの研究発表を聞いたことはない。恐らく、半導体材料として取り扱った経験がなく、敬遠されているのかもしれない。
ここまでの結果から、Cuに代わる微細配線としての材料は、RuまたはMoの二種類に絞られた。これらはどちらも、Cu代替材料として研究されており、時々、その発表を見かける。しかし、ここ最近、Ruの直接加工が濃厚になってきたように感じられる。その理由は二つある。次ページで説明しよう。
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