ナノ構造誘起法で、強磁性単結晶ナノワイヤを作製:10kOe以上の高い保磁力を実現
東京工業大学は、新たに開発した「ナノ構造誘起法」を用い、10kOe以上という高い保磁力を有するL1▽▽0▽▽規則化単結晶構造の「強磁性ナノワイヤ」を、アニール(加熱)処理のみで作製した。
東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の真島豊教授らによる研究グループは2022年10月、新たに開発した「ナノ構造誘起法」を用い、10kOe以上という高い保磁力を有するL10規則化単結晶構造の「強磁性ナノワイヤ」を、アニール(加熱)処理のみで作製したと発表した。
強磁性ナノワイヤは、トンネル磁気抵抗素子や磁気メモリ、磁気センサーといった用途で用いられている。その作製方法としてこれまでは、結晶性基板上に強磁性薄膜を作製し、エッチングによってナノワイヤ化する手法が一般的に用いられてきた。
これに対し、新たに開発したナノ構造誘起法は、シリコン基板など非晶質基板上にナノワイヤを直接形成し、アニール処理を行うだけでL10規則相とする方法である。従来のように結晶性基板を用いる必要がないため、より広い基板でスピンデバイスを作製することが可能になるという。
真島氏らはこれまで、電子線リソグラフィを用い、20nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極を作製してきた。今回はこの手法を活用し、シリコン基板上にコバルトと白金の交互積層ナノワイヤを直接形成した。そのあとでアニール処理を行い、保持力が10kOeを超える強磁性ナノワイヤの作製に成功した。
ナノ構造誘起法で作製したL10規則化CoPt単結晶ナノワイヤのSEM像と、磁気ヒステリシスループ(M-Hカーブ) 出所:東京工業大学
2次元微小角入射X線回折(GI-XRD)パターンと、ナノビーム電子回折(NED)パターンにより、試作した強磁性ナノワイヤが、L10型規則相を形成していることを確認した。さらに、ナノワイヤ断面が線幅30nmのどんぐり型形状であることや、ナノワイヤが双晶を含む単結晶になっていることを確認したという。
左は強磁性ナノワイヤの2次元微小角入射X線回折(GI-XRD)パターン、中央はナノビーム電子回折(NED)パターンやどんぐり型のナノワイヤの断面BF-TEM像など、右は高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像 出所:東京工業大学
東京工業大学では今後、企業などと連携し実用化に向けた研究開発に取り組む考えである。
- 富士通と東京工業大学、「協働研究拠点」を設置
士通と東京工業大学は、東京工業大学すずかけ台キャンパス内に「富士通次世代コンピューティング基盤協働研究拠点」を設置した。現行HPCの処理能力を超える次世代コンピューティング基盤の確立と、応用範囲の拡大を目指す。
- PSB技術を用いたチップレット集積技術を開発
東京工業大学とアオイ電子らによる共同研究チームは、広帯域のチップ間接続性能と集積規模の拡大を可能にするチップレット集積技術「Pillar-Suspended Bridge(PSB)」を開発したと発表した。
- 産総研ら、表面弾性波で単一電子を高い効率で移送
産業技術総合研究所(産総研)や東京工業大学らによる研究グループは、表面弾性波の孤立パルスを発生させる技術を開発するとともに、この技術を用い単一電子を高い効率で移送することに成功した。量子コンピュータにおける量子情報の移送手段として、その応用が期待される。
- Crハライド系物質でスピン流の整流効果を発見
東京工業大学と千葉大学は、磁性絶縁体のCrハライド系物質にギガヘルツからテラヘルツ帯の電磁波を印加すると、スピン流の整流効果が生じることを理論的に解明した。しかも、スピン流の強度はこれまでの予測値に比べ、約2桁大きくなることも分かった。
- 無機化合物で2つの基本構造を共存、制御も可能に
東京工業大学は、京都大学や大阪大学、東北大学の研究グループと共同で、無機化合物の基本的な結晶構造である「岩塩型構造」と「蛍石型構造」を共存させ、制御できることを発見した。環境浄化や人工光合成の実現に向けた、新しい機能性材料の開発につながる可能性が高い。
- 1分子が単独で強く発光する固体発光材料を作製
東京工業大学らの研究グループは、1分子で強く発光する「固体発光材料」を作製した。有機π電子系の蛍光色素分子に、やわらかな「橋かけ構造」を導入することで実現した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.