CHIPS法は、今後5年間に増設する製造能力への資金提供を目的としている。これは、新しい工場の多くが生産を開始する2024年までに、米国だけで新工場で働く1万5000人以上の技術職と5000人以上のサポート職を補充する必要があるということでもある。
これは控えめな見積もりであるが、それでも現在の米国における半導体製造の雇用を20%上回っており、新工場によって創出される4万人もの関連雇用は含まれていない。
工場は2〜3年で建設し新しい装置も導入可能だが、工場運用やサポートに必要な技術スタッフのトレーニングと雇用にはさらに数年かかる可能性がある。
これらの仕事の一部は、米国の大学の新卒者に割り当てられる。CHIPS法には半導体関連の研究費1700億米ドルが盛り込まれており、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)や米エネルギー省(DoE:Department of Energy)、米商務省(DoC:Department of Commerce)、米国標準基準局(NIST:National Institute of Standards and Technology)、NASA(米航空宇宙局)など複数の米国政府機関に分割して提供される。この資金は、これらの機関の基本資金を上回る重要な追加投資となる。
大学はこの資金の一部を、助成金やスポンサープログラムを通じて直接的に、また国立研究所や産業界との連携を通じて間接的に受け取ることになる。その結果、多くの大学院生のポジションが新たに生まれ、最終的には先端半導体、半導体製造および関連分野の教育を受けた多くの新卒者を生み出すことになる。これらの卒業生が新工場を埋めることになるのだ。
半導体メーカーも、この資金援助に乗り出すだろう。
例えば、Intelは2022年9月、オハイオ州での半導体人材育成/研究プログラムの第1期資金調達を発表し、今後3年間で8つのプロジェクトに1770万米ドルを出資し、オハイオ州の80以上の大学と協力して半導体人材育成プログラムを開発すると約束した。
しかし、それでもこの限られた期間内に必要な全ての雇用を満たすには足りない可能性がある。
CHIPS法の原案には、エンジニアリングや半導体製造の訓練を既に受けている高度な技術を持つ移民のための「H-1Bビザ」の増枠が含まれていた。これは最終版では削除されたが、早急に米国政府が再考すべきもう一つの選択肢だ。こうしたビザを増やしたとしても、世界的な製造能力の増加とエンジニアの人材に対する高い需要から、海外からの雇用は難しいかもしれない。
皮肉なことだが、現在の半導体需要の落ち込みは、不幸中の幸いといえるだろう。
この一時的な需要減退は、サプライチェーンの補充を可能にするだけでなく、次世代半導体工場のための新しい労働力を教育するための時間確保も可能にする。これはまた、一部の新工場では、装置の設置や生産の立ち上げに予定よりも時間がかかる可能性があることも意味する。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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