東京工業大学は、静電アクチュエーターの出力を、従来の1000倍にできる「有機強誘電材料」をENEOSと共同で開発した。この材料を用いた静電アクチュエーターは軽量かつ柔軟性に優れており、駆動電圧も数十Vで済むという。
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の西村涼特任教授と市林拓特任准教授らによる研究チームは2022年11月、静電アクチュエーターの出力を、従来の1000倍にできる「有機強誘電材料」をENEOSと共同で開発したと発表した。この材料を用いた静電アクチュエーターは軽量かつ柔軟性に優れており、駆動電圧も数十Vで済む。このため、パワースーツの人工筋肉や電気自動車のアクチュエーターなどへの応用が期待されている。
静電アクチュエーターは、電磁アクチュエーターに比べ「構造が簡単で軽量」といった特長がある。ただ、大きな出力を得るためには、電極間距離を狭くして印加される電界を強めたり、10kV程度の高電圧を印加したりする必要があった。
こうした中で研究チームは、電極/誘電体間に蓄積される電荷量によって、静電アクチュエーターの発生力が決まることに着目。電荷量を増やすため、強誘電体が有する大きな自発分極を利用することにした。そこで、有機強誘電体の一種である強誘電ネマチック液晶を、静電アクチュエーターの媒体として用いることにした。
ところが、既存の強誘電ネマチック液晶は室温で結晶となり、デバイスへの応用は難しかった。そこでスーパーコンピュータ「TSUBAME3.0」を用いて、既存の強誘電ネマチック液晶と混合する分子を見いだした。これにより、室温でも約5μC/cm2という大きな自発分極を持つ強誘電ネマチック液晶材料の開発に成功した。
実験では、開発した強誘電ネマチック液晶材料を、有効面積が1cm2の平行平板電極間に満たした。この結果、0.5MV/mの印加電界条件で1.3Nの静電力が得られることが分かった。この値は、誘電率が10程度の一般的な常誘電体に比べ、1000倍以上も大きいという。また、発生する静電力は印加電圧に比例することも実証した。
さらに、3Dプリンタと樹脂メッキで作製した2重らせんコイル電極に、開発した液晶材料を満たした。この試料に18V電源(9V乾電池を2個直列接続)を印加したところ、収縮動作が確認できた。200Vを印加すると約20%の大きな収縮率が得られたという。
今回開発した液晶材料は粘性液体であり、研究チームは実用化に向けてエラストマー化やゲル化に取り組んでいる。また、運動エネルギーを電気エネルギーに逆変換することも原理的には可能なため、エネルギーハーベスティング分野への適用も検討している。
今回の研究成果は、西村氏と市林氏の他、東京工業大学の渡辺順次特任教授、陳君怡特任助教および、ENEOS機能材カンパニーの増山聡研究員と清水源一郎研究員らによるものである。
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