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米国、YMTCや21社の中国AI関連企業を禁輸リストに追加国家安全保障に、「AIによる脅威もたらす可能性」

米国商務省は、YMTCや、20社以上の中国半導体メーカーを新たに禁輸リストに追加した。リストに追加した企業のうち21社は、中国の軍事および防衛産業を支援する、主要なAIチップ開発企業およびベンダーで、「米国の国家安全保障に対しAI(人工知能)による脅威をもたらす疑いがある」としている。

» 2022年12月20日 13時00分 公開
[Alan PattersonEE Times]

 米国商務省は、YMTCや、米国の国家安全保障に対しAI(人工知能)による脅威をもたらす疑いがあるとする20社以上の中国の半導体メーカーを新たに禁輸リストに追加した。

「中国の軍事力近代化、人権侵害を制限」と説明

 商務省の産業安全保障局(BIS)は2022年10月に講じた措置を拡大し、YMTCやAIチップの設計企業Cambricon Technologiesなどの企業をいわゆるエンティティリスト(Entity List)に追加した。これによって、米国の技術で製造された半導体や製造装置の購入が阻止される。

 産業安全保障担当商務次官のAlan Estevez氏は2022年12月15日(米国時間)、「米国の国家安全保障を守るために2022年10月に講じた措置に基づいて、中国がAIや高度なコンピューティング、その他の強力で商用利用可能な技術を、軍事力の近代化や人権侵害に活用できないように厳しく制限している。この取り組みは今後も継続していく」とコメントした。

 BISの声明によると、エンティティリストに追加した企業のうち21社は、中国の軍事および防衛産業を支援する、主要なAIチップ開発企業およびベンダーだという。BISは、「中国による軍事力の近代化を支援する企業のうち7社は、極超音速兵器の開発など、中国の軍事活動に関連する取り組みに従事している」と述べている。

 中国は2年以上前、迎撃を回避できる極超音速ミサイルを世界で初めて配備した。米国はいまだ、独自の同ミサイルに関して発表していない。

 米上院院内総務のChuck Schumer氏と超党派の上院議員グループは2022年7月、商務省に対し、YMTCをエンティティリストに追加するよう要請していた。

 Schumer氏から米国EE Timesに送られてきたメールによると、同氏は、「国防権限法(NDAA)案に対する修正案を提出し、米国政府が中国企業であるSMICやChangXin Memory Technologies(CXMT)、YMTCが製造する半導体の購入および使用を禁止するよう要請した」という。同氏は、「NDAA案は2022年12月19日の週に上院を通過する」と述べていた。

 国防総省を含む米国政府は、コンピューティングおよび兵器システムにおいて、海外製半導体に依存している。

 Schumer氏は、「私は長い間、YMTCや、CXMTやSMICといった中国政府が支援するテクノロジー企業の背後にある、国家安全保障と経済に対する深刻な脅威について警鐘を鳴らしてきた。YMTCは米国の国家安全保障に差し迫った脅威を与えることから、バイデン政権はYMTCが軍事的もしくは経済的に1インチでも優位に立つことを防ぐため、迅速に行動する必要があったのだ」と述べている。

YMTCのリスト追加理由に疑問の声も

 だが、メモリ半導体メーカーである YMTC が国家安全保障上の脅威と見なされるべき理由について疑問を呈する人もいる。

 Dentons Global Advisorsのシニアバイスプレジデント、Paul Triolo氏は、「今回のエンティティリストへの追加については、YTMCが、HuaweiやHikvisionというリスト登録済みの企業に供給していることを懸念材料として挙げ、登録を正当化する主な理由としている。このやや言い訳めいた正当化は、中国企業が別の中国企業に最先端でもない民生向け端末用の汎用半導体を提供している場合に、国家安全保障上、何が問題となるのかについて説明していない」と指摘している。

 EE Timesが行ったアナリストへの調査では、2022年10月7日(米国時間)に発表された米国の措置は、中国の半導体メーカーを何世代も後退させる一方で、半導体および製造装置のグローバルサプライヤーにも数十億米ドルの損失を生じさせることが予想されている。

 Triolo氏は、「今回の新たな措置は、グローバルサプライチェーンの各企業による米国技術のデザインアウトに拍車を掛けることになるだろう」と述べている。

 「製造と製造装置の両方で完全に米国技術を排除した半導体サプライチェーンはまだ存在しないが、さいは投げられた。中国にはこの問題に投入できる多くのリソースがある。ここでの大きなワイルドカードは、中国企業が製造拠点として台湾およびTSMCを利用することを阻止しようとする米国の一層の取り組みに、中国政府がどう反応するかだ」(Triolo氏)

 2020年、ドナルド・トランプ前米国大統領の政権は、TSMCがHuaweiに先進半導体を供給することを阻止した。当時、HuaweiはTSMCの売上高の約14%を占めていた。

 Triolo氏は、「今回の米国の新たな措置は、中国がこれまで考えもしなかったような対応を迫られるきっかけになりそうだ」と述べる。

 「今回の措置については、最低でも中国によるWTO(世界貿易機関)への提訴事項に追加される可能性が高い。また、米国への対応としては、一部の米国企業を非信頼性事業者リスト(Unreliable Entities List)に指定する、反制裁法やブロッキング法に基づき企業を調査する、あるいはサイバーセキュリティの審査を利用し、中国で活動する米国企業に嫌がらせをする、などが考えられる。その他、米国のエンドユーザーに対し、レアアースや最終製品の供給を制限することも考えられる」(同氏)

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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