米国政府がNVIDIAのGPUについて中国への輸出を制限する新たな規制を行ったことについて、あるアナリストは、「世界をリードする中国のAI(人工知能)開発が、減速する可能性がある」と指摘する。
米国政府がNVIDIAのGPUについて中国への輸出を制限する新たな規制を行ったことについて、あるアナリストは、「世界をリードする中国のAI(人工知能)開発が、減速する可能性がある」と指摘する。
米国は、プロセッサが軍事用途向けに使われるとの懸念から、中国とロシアへの半導体輸出を規制している。米商務省は2022年8月12日(米国時間)、米国の国家安全保障において極めて重要とされる、複数国からの技術輸出について、新たな規制措置を発表した。この措置は、トランプ前政権から現在のバイデン政権でも続く米中間の技術戦争において、最新の一撃となっている。
NVIDIAは、2022年8月に発表した報道向け資料の中で、「米国政府は、今後中国(香港を含む)とロシアに輸出される当社のGPU『A100』と、近く発表予定のGPU『H100』に関して、新たなライセンス要件を課した。この規制措置は、即時発効となる。ライセンス要件の対象としては、ピーク性能とChip-to-Chip(チップ間)のIO性能の両方において、A100とほぼ同等またはそれ以上のしきい値を達成する、NVIDIAが今後発表予定のあらゆる集積回路および、これらの回路を搭載するシステムも全て含まれる」と述べている。
英国の株式調査会社Arete Researchのシニアアナリストを務めるBrett Simpson氏は、米国EE Timesの取材に応じ、「米国政府がどのようなライセンス条件や承認プロセスを導入するのかは、今のところまだ不明だ。ただ、NVIDIAに最も大きく依存している中国企業としては、ハイパースケーラーのBaiduやAlibaba、Tencentの他、水平分業型AIプレーヤーであるSensetimeやMegvii、Yituなどが挙げられる。これらの企業は、膨大な巨大なデータセットを保有し、最先端のAIトレーニングにも精通している」と述べる。
「米国政府は明らかに、中国に対し、大規模AIモデルのトレーニングにおいて非常に重要とされる、最新型GPUの大規模クラスタを展開する能力を、制限しようとしている。最近では、例えば2021年の最先端モデルが1兆パラメーターを大きく上回るなど、最先端の変換モデルが急激に規模を拡大していることから、現在、こうしたモデルのトレーニングを効率化していく上で、ハードウェアクラスタリングの重要なアップグレードサイクルの真っただ中にあるといえる。このため、中国は今回の規制措置によって、最先端のAI分野における主導的な地位を維持していくための能力が、大きく低下する可能性がある」(Simpson氏)
また、AMDに詳しい情報筋は、匿名を条件に、「米国政府は、AMDのチップ輸出に関しても、同様の規制措置を課している」と述べる。
この情報筋によると、商務省は2022年8月、AMDに対し、同社のAI向けGPUアクセラレーター「MI250」の中国およびロシアへの出荷を阻止する、新しいライセンス要件を課したという。ただし、同社の「MI100」および「MI210」に関しては、新たな要件による影響を受けないとみられる。
NVIDIAは、「この影響はかなり大きいだろう」と述べている。
NVIDIAは報道向け資料の中で、「当社の2022会計年度第3四半期における中国への売上高は、約4億米ドルとなる見込みだ。しかし、顧客企業がNVIDIAの代替製品の購入を拒否する場合や、米国政府がタイミングよくライセンスを許可しなかったり、重要顧客に対してライセンス許可を与えなかったりした場合には、新しいライセンス要件の影響が売上高に及ぶことになるだろう」と述べている。
Simpson氏によると、中国メーカーは、AIアプリケーション開発において米国の先を行っているという。
「ByteDanceなどの企業はレコメンデーションエンジンの分野において、Metaをはじめとする米国メーカーの先を進んでおり、既にシンガポールなどの中国国外に、データセンターや最先端のトレーニングシステムを保有している。このため、今回のような規制措置の適用範囲を確認する必要がある。米国政府がライセンスに関して強硬な姿勢を取れば、中国企業は、AI分野におけるトップの座をなんとか維持するのに苦労することになるだろう」(Simpson氏)
またSimpson氏は、「中国政府は対抗措置として、国内のAIチップ関連の新興企業の取り組みを加速させていく可能性もある。しかし、こうした企業が、NVIDIAの新型プラットフォームH100はもちろん、『N-1』機能に匹敵するような大規模クラスタの商用化を数年の間に実現できるようになるまでには、まだ時間がかかるだろう」と述べる。
さらに同氏は、「HiSiliconは、中国国内でも群を抜いて優れた能力を有していたが、もはや最先端の半導体チップを製造することはできない。今後、CambriconやBirenTechnology(以下、Biren)などの中国メーカーが、多彩な活動を繰り広げていくだろう」と付け加えた。
Birenは2022年8月に、TSMCCの7nmプロセス適用の新型GPUを発表した。
世界最先端の半導体製造技術を有するTSMCは、2022年中に3nmチップの製造を開始する予定だ。
HUAWEIの半導体設計部門であるHiSiliconは、2年以上前から米国政府のブラックリストに掲載されている。商務省はこの当時、「米国の国家安全保障を保護する計画の一環として、HUAWEIが、米国製技術およびソフトウェアを適用して、海外で自社製半導体を開発/製造することを制限する」と発表した。
あるアナリストが匿名を条件に語ったところによると、米国は、TSMCやSamsung Electronicsなどのファウンドリーが、7nm以降のプロセス技術を適用して中国製AIチップを製造することを、禁止する可能性があるという。
同アナリストは、「このような禁止措置は、中国国内で製造する国産のAIチップ開発だけでなく、他のさまざまな種類の最新のAIロードマップにも影響が及ぶ可能性がある。こうした技術制裁は、ここで止まることはないだろう」と指摘する。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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