富士通と東海大学との共同研究グループは2022年12月21日、超音波AI(人工知能)技術を活用し非破壊で冷凍マグロの鮮度評価に成功したと発表した。
富士通と東海大学との共同研究グループは2022年12月21日、超音波AI(人工知能)技術を活用し非破壊で冷凍マグロの鮮度を評価することに成功したと発表した。ここでいう超音波AI技術とは、超音波検査の結果にAIを活用した分析を加えることを指す。
市場で流通するマグロの8割は鮮度低下を防ぐために冷凍状態で取引されている。冷凍マグロの鮮度検査は熟練者が尾切り(尻尾を切断)して目視で確認する破壊的かつ属人的な検査方法が主流で、検査可能なタイミングや場所が限られていた。また、既存の超音波を使った非破壊の検査方法では、冷凍マグロの肉質による超音波の減衰の影響が大きく検査方法として問題があった。
超音波AI技術の詳細について富士通 研究本部 人工知能研究所の酒井彬氏は「通常の超音波検査で使用される1MHz以下の500kHzの低周波であれば冷凍マグロを透過することが分かった。しかし、低周波の超音波では得られる情報の解像度が低いため、それを補うために鮮度を判別する世界初のAIを構築した。検査の成功率は約70〜80%で、現状の尾切り選別の成功率と同程度と考えられる」と説明した。
研究の背景について東海大学 海洋学部 水産学科教授の後藤慶一氏は、「『おいしい魚を消費者に届けたい』という思いで8年前から研究を始めた。人によって基準の異なる『おいしい』を客観的に示すことで消費者が個人の好みに応じて選択可能になる。魚にはたくさんの種類があるため、まずはマグロに特化して研究を進めている」と語った。
研究の意義について東海大学 海洋学部 水産学科 研究員の八木雅文氏は「マグロ産業の成長と国際化は急速に進み、2020年のマグロの漁獲量は1950年の約8倍となる400万トン、市場規模は約5兆円となった。すしや刺身など日本の生食文化が世界的に広がったことが原因で、それに伴いマグロの品質向上も求められている」と説明した。
海外では鮮度検査ができる熟練者が少なく、仮に鮮度に問題のないマグロでも十分な評価ができない場合はツナ缶など鮮度の基準が低い製品に加工する。だが、こうした加工品の販売価格は、生食用で提供する場合の4分の1以下になってしまう。超音波AI技術が普及した場合、海外でも新鮮なマグロを単価の高い生食用に提供できるためマグロ市場の拡大が予想される。
今後の研究について酒井氏は「鮮度不良以外の焼けや血栓などの品質異常の検出や、おいしさ判定にまで踏み込んだ技術開発を行う」と述べた。また、現在は設置型の検査機器を想定しているが、将来的には持ち運べるよう小型化することも検討している。卸売業者をメインターゲットに2025年ごろの実用化を目指す。
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