ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州最大規模のエレクトロニクス展示会「electronica 2022」(2022年11月15〜18日)では、パワー半導体メーカーの経営幹部らが、GaN/SiCパワートランジスタを巡る現在および将来の課題/チャンスについて議論を展開。特に、その製造と普及率に焦点を当てた。
パワーマネジメントの分野では現在、GaN(窒化ガリウム)およびSiC(炭化ケイ素)パワートランジスタが新たな革新的技術として高く評価されているが、特に高いコストや信頼性の低さなど、克服すべき課題がいまだ残されている。
気候変動や昨今のエネルギー危機といった課題に対応していく上で、最優先事項とされているのが、電子デバイスの電力消費量と発熱を抑えることだ。
今後も引き続き、クラウドコンピューティング、あるいはメタバースに向けた大規模データセンターや、新型スマートフォンをはじめとする各種小型電子デバイスなどに対する投資が行われていくだろう。SiCとGaNはこのいずれについても、小型化や発熱/電力消費量の削減を実現できるが、標準技術になるまでにはまだ時間がかかるだろう。
ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州最大規模のエレクトロニクス展示会「electronica 2022」(2022年11月15〜18日)では、米国EE TimesのMaurizio Di Paolo Emilio氏がパネルディスカッションの司会を務め、パワー半導体メーカーの経営幹部らが、GaN/SiCパワートランジスタを巡る現在および将来の課題/チャンスについて議論を展開。特に、その製造と普及率に焦点を当てた。
このディスカッションでは、GaN/SiCパワートランジスタの長所がかなり重要視されていたが、シリコンMOSFETが直ちに消え去るわけではないということも明言された。GaNトランジスタの製造コストは、MOSFETと同程度またはそれを下回るレベルに達しているものの、量産に追い付くには、まだこの先数十年もの長い時間を要するとみられる。
Navitas Semiconductorでコーポレートマーケティング/IR担当バイスプレジデントを務めるStephen Oliver氏は、「最初の電力革命が起こったのは、バイポーラトランジスタがMOSFETになった時だ。そしてわれわれは現在、2度目の革命の最中にあるといえる。GaN/SiCによって、シリコンは消え去ろうとしている。インテグレーションや高電圧化など、最先端技術に取り組んでいくためには、GaN/SiCを専業とする方向に進むべきだ」と述べている。
この2種類の化合物が将来的に、シリコンMOSFETとバイポーラトランジスタを置き換えることになるのは明らかだ。問題は、いつ頃をメドに実現でき、どのような種類のコストが発生するのか、という点である。
Efficient Power Conversion(EPC)のCEO(最高経営責任者)であるAlex Lidow氏は、「現在のレガシーアプリケーションは、この先10〜15年以上にわたり、引き続きシリコンMOSFETで使われるとみられる。MOSFETは今後、成長率だけでなく、生産数量の成長率の面でも伸び悩むとみられるが、バイポーラトランジスタと同様に価格が上昇していくだろう。これは、長期的なサイクルからみた側面である。GaNパワートランジスタは既に、MOSFETよりも生産コストが低くなっている」と述べる。
業界では、2030年にGaN/SiCパワートランジスタの合計が、MOSFETの市場価値に到達する見込みだという。
Infineon Technologiesのシニアプリンシパルを務めるGerald Deboy氏は、「現在、市場全体の95%をシリコンが占めている。もちろんSiC/GaNは、非常に速いペースで成長を遂げているところだ。われわれは、SiCとGaNの高度な差別化を実現する最先端の設計を行っていくため、あらゆる種類の技術を確保する必要がある。その一方で、シリコンはそれらの隙間を埋める存在であり、今後少なくとも10年間は、全ての技術が共存していくことになるだろう。SiC/GaNの成長をみると、GaNがわずかにSiCに後れを取っているものの、GaNすさまじい速さで成長しており、多くのチャンスが広がっている」と述べる。
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