本稿では、米国の半導体政策に焦点を当て、それが世界にどのような影響を及ぼしてきたか、または及ぼすと予測されるかについて論じる。
2020年になってコロナの感染が拡大し、爆発的にリモートワーク、オンライン学習、ネットショッピングが普及したため、2021年に世界的に半導体が不足する事態となった。加えて、「半導体を制する者が世界を制する」というブームが到来し、世界中で半導体工場の建設ラッシュとなった。
それは明確な数字となって表れている。図1は、世界全体および各国・各地域における半導体工場の着工数を示している。世界全体で見ると、2018〜2020年に64工場だったものが、2021〜2023年には85工場が着工されることになった。
特に、米国(3→18)、欧州(7→18)、日本(3→6)、東南アジア(1→6)では工場着工数が激増している。一方、それとは対照的に中国(34→20)は工場着工数が激減する(カッコ内は2018〜2020年と2021〜2023年の着工数を示す)。それはなぜなのか?
本稿では、米国の半導体政策に焦点を当て、それが世界にどのような影響を及ぼしてきたか、または及ぼすと予測されるかについて論じる。
結論を先取りすると以下のようになる。2022年10月7日に米国が発表した対中規制(以下、「2022・10・7」規制と呼ぶ)は異次元の厳しい措置であり、中国半導体産業に甚大なダメージを与えることになる。しかし、その報復措置として中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる「台湾有事」を誘発するかもしれない。そして、そのような時の保険として、TSMCが生産能力を分散するために米日独にファウンドリーを建設することにしたのではないか、と推測した。
半導体ファウンドリーの分野で50%以上のシェアを独占し、最先端の微細化を独走するTSMCは、もともと米国に半導体工場を建設する気はなかった。米国での半導体生産は、台湾よりも50%もコストが高いためである。
ところが、2020年5月14日、TSMCは米アリゾナ州に120億米ドルを投じて、5nmの半導体工場を建設することを発表した。米国政府から何度も誘致を受け、多額の補助金を出すとの約束を取り付けたことから米国進出を決めたのだろう。また同日、TSMCは、5G通信基地局で世界を制覇しようとしていた中国のHuaweiに対して、同年9月14日以降、半導体を出荷しないことを決定した。
TSMCの地域別出荷額の比率を見てみると、Apple、Qualcomm、Broadcom、NVIDIA、AMDなどのビッグカスタマーを含む米国比率が60〜70%以上となっている(図2)。一方、HuaweiはAppleに次ぐ2番目のカスタマーであり、2020年Q2の中国シェアは22%を占めていたが、TSMCがHuaweiへの出荷を止めた同年Q3にそのシェアは6%まで低下している。TSMCから半導体を調達できなくなった結果、Huaweiは、スマートフォンと5G通信基地局のビジネスが壊滅的になった。
米アリゾナへの進出とHuaweiへの出荷停止が明らかになった「2020・5・14」は、TSMCが中国ではなく米国側に付いた日であり、半導体の歴史におけるターニングポイントになったと思われる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.