「2022・10・7」規制は中国半導体産業にとって劇薬となるが、米日欧の装置メーカーや材料メーカーへの被害も甚大である。図5に地域別の装置市場の推移を示す。中国の装置市場は2020年以降、台湾や韓国を押さえて世界最大市場となった。
2021年は、中国が296.2億米ドル、韓国が249.8億米ドル、台湾が249.4億米ドル、日本が78.0億米ドル、米国が76.1億米ドル、欧州が32.5億米ドルだった(なお、この巨大な中国の装置市場には、TSMC、Samsung、SK hynixの中国工場向けも含まれている)。
ところが、「2022・10・7」規制により、中国では(特に先端の)半導体工場の新増設が困難になる。従って、中国の装置市場は大きく減少する。筆者は、100億米ドル程度は減ると予想している。そして、中国の装置市場が急速に縮小すれば、米日欧の全ての装置メーカーの売り上げが減少する。装置売上高の大きいAMAT、ASML、TEL、Lam、KLAの各社は、十数億〜数十億米ドル程度の減少になると思われる。
さらに、中国では、半導体工場の新増設ができないだけでなく、既存の半導体工場の稼働も止まる可能性がある。そうなると、ウエハー、レジスト、CMPスラリ、各種薬液などの材料ビジネスが大きく損なわれる。図6に示したように、半導体材料では、日本企業が高いシェアを有している分野が多い。従って、日本の材料メーカーにとって厳しい事態となる。
しかし、米日欧の装置メーカーや材料メーカーがどうなろうとも、中国の軍事的脅威をたたきつぶすまで、米国は「2022・10・7」規制を止めることは無いだろう。となると、今後、どのようなことが起きるだろうか?
2022年12月6日にTSMCのアリゾナ工場で開設式典が行われた際、TSMC創業者の張忠謀(Morris Chang)氏は、Biden大統領や米AppleのTim Cook CEO等が参列する中で、「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ。多くの人がまた復活すると願っているが、私はそうなるとは思わない」と述べたという(日経新聞、2022年12月9日、「TSMCが自由貿易を弔う現実」)。
異次元の厳しさの「2022・10・7」規制の内容とその甚大な影響を考慮すれば、筆者もMorris Chang氏の発言に賛同せざるを得ない。
そして、このような厳しい「2022・10・7」規制に反発して、中国が米国に対して、何らかの報復措置を取る可能性がある。その最悪のケースが、中国が台湾に軍事侵攻してTSMCを占領する、いわゆる「台湾有事」の勃発である。
台湾では、有事に備えてシェルター(防空壕)の設置が進められている。台湾内政部(内政省)の警政署によると、有事などを想定し、全土に約10万5000カ所のシェルターの整備が進んだ。全体の収容能力は合計約8600万人に上る。台湾の定住人口(外国人含め約2400万)の3倍超に相当するという(日経新聞、2022年12月28日、「台湾、有事対応でシェルター10万カ所整備 人口の3倍超」)。
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