今回は、「手術支援ロボット」(2.3.2.1)から「(2)手術支援ロボットの動向」部分の概要を取り上げる。国産初の手術支援ロボット「hinotori」について説明する。
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を第377回からシリーズで紹介している。
前回から、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」より第2項(2.3.2)「メディカル」の概要を報告している。「メディカル」は4つの項目、すなわち「手術支援ロボット」(2.3.2.1)、「マイクロ流体デバイス」(2.3.2.2)、「感染症とPCR検査、遺伝子検査、迅速検査」(2.3.2.3)、「バイオセンサ」(2.3.2.4)で構成される。
前回は「手術支援ロボット」(2.3.2.1)に対する期待を述べるとともに、補足として手術支援ロボットの先行事例であるIntuitive Surgical, Inc.の「da Vinci Surgical System(ダビンチ内視鏡手術支援システム)」(「ダビンチ」と略されることが多い)シリーズを解説した。
今回は、「手術支援ロボット」(2.3.2.1)から「(2)手術支援ロボットの動向」部分の概要を説明する。なお前回で述べた「ダビンチ」の解説は、ロードマップ本体には含まれていないので留意されたい。
医療における「外科手術」と言えば、人体の腹部を切開する開腹手術、頭骨に孔を開けたりする脳外科手術などを想像することが少なくない。これらの手術は患者の身体に負担をかけ、患者が数週間の入院を強いられることがめずらしくない。
これに対して患者の身体に対する負担が少ない術式として普及してきたのが、内視鏡手術(腹腔鏡手術や胸腔鏡手術など)である。4個程度の小さな孔に手術器具とカメラを通して手術するので、出血が少なく、術後の回復が早い(入院日数が数日以内と短い)。ただし内視鏡手術には開腹手術に比べ、いくつかの弱点がある。手術の視野が狭い、手術器具の自由度が低い、高度な技術が執刀医に要求される、想定外の出血が生じたときに対応(止血)が遅くなる、などだ。
内視鏡手術の支援ロボットは、このような弱点を補ってくれる。根本的な違いは、ロボットのアームが人間には不可能な動きをすることにある。例えば360度の回転操作が可能だ。このため、視野が拡大する、手術器具の自由度が拡大する、といったメリットが生まれる。
そして前回でも述べたように、内視鏡手術支援ロボットの先行メーカーであるIntuitive Surgical, Inc.が有する特許のほとんどが期限切れを迎えたことで、国内外で手術支援ロボットの開発が急激に活発化した。ロードマップ本体では国内外の開発状況と製品化状況を一覧表にまとめてある。本稿では国産初の手術支援ロボット「hinotori」について少し説明する。
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