産業技術総合研究所(産総研)は東京都立大学と共同で、二硫化モリブデン上に層状物質である三テルル化二アンチモンを成膜し、トランジスタのコンタクト抵抗を大きく低減させることに成功した。
産業技術総合研究所(産総研)は2023年2月、東京都立大学と共同で、二硫化モリブデン(MoS2)上に層状物質である三テルル化二アンチモン(Sb2Te3)膜を形成し、トランジスタのコンタクト抵抗を大きく低減させることに成功したと発表した。作製したn型MoS2トランジスタは、半導体製造プロセスにも十分に対応できる耐熱性を備えているという。
2次元結晶構造を有する遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)と呼ばれる材料「MoS2」は、1nm以下の原子層領域でも高い導電性を維持できるため、次世代トランジスタのチャネル用半導体材料として注目されている。しかし、一般的な金属電極とMoS2接触面のコンタクト抵抗が高いため、トランジスタの性能向上を妨げているという。
産総研は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「原子層ヘテロ構造デバイスの実証と3次元集積LSIのための原子層成膜プロセス開発(2017〜2021年度):都立大との共同実施」プロジェクトで、高性能TMDCトランジスタの研究を行ってきた。
研究グループは今回、MoS2を用いたトランジスタを作製し、そのコンタクト材料としてSb2Te3に着目した。Sb2Te3は、多数の原子が層状になっており、層同士はファンデルワールス力という弱い結合で結びついているという。また、半金属に似た特性(バンドギャップは0.2〜0.3eV)を示し、融点は約620℃と高い。
こうした特徴は、Sb2Te3とMoS2の間でファンデルワールス界面を形成し、フェルミ準位のピンニング(FLP)現象を抑制する可能性があることを示すものだという。このため、Sb2Te3を用いることで、高い耐熱性と低コンタクト抵抗を両立させることが可能になると判断した。
そこで今回、スパッタリング法を用い単層MoS2上にSb2Te3膜を形成。そして、Sb2Te3/MoS2の接触界面にファンデルワールス界面が形成されていることを透過電子顕微鏡(TEM)で確認した。
Sb2Te3/MoS2積層膜構造の耐熱性も調べた。ラマン分光法による分析で、熱処理前後にMoS2単層構造が維持されていることを確認した。また、450℃での熱処理後も、Sb2Te3/MoS2積層膜構造は良好な結晶性とファンデルワールス界面を維持していることが確認された。
研究グループは、Sb2Te3/MoS2ファンデルワールス界面形成が、トランジスタ特性に与える影響についても調べた。この結果、Sb2Te3電極を有するトランジスタの駆動電流は、SbやNi、Wなどをコンタクト材料に用いた場合に比べ、4〜30倍に向上することが分かった。実際に、MoS2トランジスタのコンタクト抵抗を測定したところ、Sb2Te3電極を用いたトランジスタのコンタクト抵抗値は、Sb電極を用いた場合に比べ約1桁小さかったという。
研究グループは今後、p型TMDCトランジスタにおける低コンタクト抵抗技術の開発などに取り組み、n型とp型のTMDCトランジスタを直列につないだCMOSの作製を目指す考えである。
今回の研究成果は、産総研デバイス技術研究部門の張文馨(Chang Wen Hsin)主任研究員や畑山祥吾産総研特別研究員、齊藤雄太研究グループ付、岡田直也主任研究員、入沢寿史研究グループ付および、東京都立大学の宮田耕充准教授によるものである。
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