Ambiqは、MLPerf Tinyベンチマークを実行したApollo4 Plusの消費電力測定値を、競合マイコンの公表値と比較している。同社のApollo4 Plusのエネルギー消費量(μJ/推論)は、他のCortex-M4デバイスと比べて、約8分の1〜13分の1だった。また、キーワードスポッティングの推論ベンチマークは1mJ未満、人物検知は2mJ未満だったという。
Ambiqの創設者であり、CTO(最高技術責任者)を務めるScott Hanson氏は、EE Timesが以前に行ったインタビューの中で、「Ambiqは、サブスレッショルド/ニアスレッショルド技術を適用することによって、このように低消費電力動作を達成している。サブスレッショルド電圧を用いることで、大幅な省電力化を実現できるが、それは決して容易なことではない」と述べる。
「表面上、サブスレッショルドとニアスレッショルドの動作は非常にシンプルだ。ただ単に電圧を下げればよい。これは一見、誰にでもできそうだが、実際には非常に難しい。電圧をニアスレッショルド/サブスレッショルド領域まで下げると、温度やプロセス、電圧などに対する感度が非常に高くなるため、既存の設計技術を導入することは極めて困難だ」(Hanson氏)
Ambiqのノウハウは、このような変化を軽減するための方法にある。
Hanson氏は、「温度やプロセスの変化に直面した時に重要なのは、供給電圧の値を、温度/プロセスの変動を安定させることが可能な値にすることだ。われわれは、プロセスや温度全体の電圧を安定化させ、サブスレッショルド/ニアスレッショルド動作の信頼性と堅牢性を実現することが可能な、独自手法を開発した」と述べる。
Ambiqの技術プラットフォーム「Spot」は、こうした課題に対応すべく、50〜100種類の幅広い設計技術を採用している。例えばアナログやデジタル、メモリ設計などで、その大半は回路レベルの技術だ。例えばバンドギャップリファレンス回路など、さまざまな旧型のビルディングブロック回路は、サブスレッショルドモードでの動作時に機能しないため、Ambiqが再設計しなければならない。この他にも、クロックの分配方法や電圧領域の割当てなどといった課題がある。
Hanson氏は、「低電圧で動作させるには、動作周波数を下げなければならないというトレードオフが伴う。このためAmbiqは、組み込み分野にサブスレッショルドのアイデアを適用することから着手した。当社は現在、超低消費電力ウェアラブル市場全体の約半分のシェアを確保している。当初、同市場向けのクロック速度は、24MHzまたは28MHzで十分だった。しかし、すぐに、顧客企業からのクロック速度要件が高くなったため、Ambiqは、動的電圧周波数スケーリング(DVFS:Dynamic Voltage and Frequency Scaling)の動作点を増やすことによって対応した。そして顧客企業は、稼働時間全体の99%をサブスレッショルド/ニアスレッショルドモードで動作できるようになった。また、計算性能の向上が必要な場合は、電圧を上昇させ、より高い周波数で動作させることが可能だ」と述べている。
「Ambiqは長期的に、低電圧や中電圧、高電圧を確実にサポートしていきたいと考えているため、さらにDVFS動作点を増やしていくつもりだ」(Hanson氏)
この他にも同社は、技術ロードマップの項目として、より高度なプロセスノードや、電圧を上げずに性能向上を実現可能なアーキテクチャ強化、AI推論/フィルターアクセラレーション専用のMACアクセラレーターなどを挙げている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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