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AI Everywhere エッジAIがもたらす革新 特集

「AIモデル生成+MCU」で産業用エッジAIの拡張を狙うルネサス Sailesh Chittipeddi氏(1/3 ページ)

ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2022年7月、組み込みAI(人工知能)ソリューションを提供するReality Analytics, Inc.(以下、Reality AI)の買収完了を発表した。今回の買収には、どのような狙いがあったのか。ルネサスのIoT・インフラ事業本部(IIBU)でエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるSailesh Chittipeddi氏に話を聞いた。

» 2022年09月08日 13時45分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

産業、車載に強いスタートアップ

 ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2022年7月、組み込みAI(人工知能)ソリューションを提供するReality Analytics, Inc.(以下、Reality AI)の買収完了を発表した。

 米国メリーランド州コロンビアに本社を置くReality AIは、2016年に設立された新興企業で、自動車、産業機器、民生機器などに向けた、非画像領域の組み込みAI/機械学習ソリューションを提供している。同ソリューションの機械学習モデルは、高速で効率的な推論が可能で、小さなマイコンに組む込む用途に最適だという。主力製品には、非視覚センサーから得られたデータを収集、解析し、軽量な学習モデルを生成するソフトウェア開発環境「Reality AI Tools」などがある。

 今回の買収には、どのような狙いがあったのか。ルネサスのIoT・インフラ事業本部(IIBU)でエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるSailesh Chittipeddi氏に話を聞いた。

なぜReality AIなのか

ルネサスのIoT・インフラ事業本部(IIBU)エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーSailesh Chittipeddi氏 出所:ルネサス エレクトロニクス

――組み込みAIを手掛ける企業は他にもありますが、なぜReality AIだったのでしょうか。

Sailesh Chittipeddi氏 産業や自動車分野に重点を置いているところ、そして非画像領域というのが、買収を決断したポイントだった。

 非画像領域でのAI学習(センシングしてモデルを生成するところ)は、これまでルネサスがサードパーティーに頼っていたところだった。Reality AIを買収したことで、AIモデルを生成し、それをルネサスのツールで同社のマイコンやMPUに実装し、エンドポイント(エッジ)向けの推論ソリューションとして提供するところまでを、一気通貫で行えるようになる。推論もトレーニングも、ビデオや音声などに重点を置いている企業が多いが、非画像領域にフォーカスするReality AIは、ユニークな存在だ。

 エンドポイントAIに携わるスタートアップには、フルスタック、つまり垂直統合型が多い。チップ設計を行い、アルゴリズムを開発し、ツールも提供する、というタイプだ。だがルネサスにとって、チップからアルゴリズムまで全てそろっている垂直統合型の企業を買収するのはあまり意味がない。われわれは、さまざまなMCUやMPUを持っているからだ。ルネサスが必要としていたのは、自社のチップやソリューションに統合でき、使い勝手を高められるソリューションを持った企業だった。それが、まさにReality AIだったのだ。

 Reality AIが産業分野と自動車分野に強みを持つところも重要だ。両分野ともルネサスの注力領域であり、当社が持つ強力な顧客基盤にうまくマッチする。Reality AIは、以前からルネサスのエコシステムパートナーでもあった企業だ。Reality AIは日本の顧客とも良好な関係を構築していて、同社のツールを提供している。ツール向けのライブラリで日本語版を用意しているほどだ。

Reality AIのソリューションが活用されているアプリケーションの一例[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス

――非画像領域でのAI学習において、サードパーティーとの協業は今後も続けていくのですか?

Chittipeddi氏 もちろん今後も協業を続ける。全ての分野にルネサスだけで対応するのは非現実的だからだ。Reality AIは、HVAC(空調システム)や鉱業機器の分野に強みを持つ。こうした分野でエンドポイントAIを使うには、Reality AIのAIモデルが適している。一方、例えば音声を活用するエンドポイントAIアプリケーションでは、ルネサスが2022年6月に協業を発表したCyberonのソリューションなどが向いている。用途や課題によって、ユーザーの選択肢が広がるようにM&Aや協業を進めるのが当社の戦略だ。

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