東京大学物性研究所の研究チームは、大きさが約1nmのフラーレン1分子に電子を通過させ、同時に光照射を行うことでフラーレンから放出される電子の位置を、1nm以下の精度で制御することに成功した。電子が1分子を通過するメカニズムについても、近畿大学との共同研究により理論的に解明した。
東京大学物性研究所の柳澤啓史特任研究員(研究当時はドイツLudwig-Maximillians大学DFGプロジェクトリーダー)らによる研究チームは2023年3月、大きさが約1nmのフラーレン1分子に電子を通過させ、同時に光照射を行うことでフラーレンから放出される電子の位置を、1nm以下の精度で制御することに成功したと発表した。電子が1分子を通過するメカニズムについても、近畿大学理工学部の鬼頭宏任准教授との共同研究により、理論的に解明した。
固体に光を照射すると、固体から電子を取り出すことができる。この現象を活用すれば、現行のコンピュータに用いられているスイッチの速度を、1000倍から100万倍に高めることが可能になるという。ただ、超高速スイッチとして固体内に集積するには、電子の放出位置を極めて小さい領域に制御することが必要となる。
そこで研究チームは、固体上に配置したフラーレン1分子から電子が放出される構造(1分子電子源)の試料を用いて、実験を行った。具体的には、フラーレン1分子を固定した電子源に光を照射し、電界電子放出顕微鏡(FE顕微鏡)を用いて、電子の放出位置を観測した。この結果、光を「照射した場合」と「照射しない場合」で電子の放出位置は大きく変化することが分かった。このことは、「1分子で電子の分岐器を作製したことになる」という。
さらに、量子的な計算モデルを構築して、実験結果と比較した。光照射で電子の放出位置が大きく変化するのは、「フラーレン1分子に広がる電子の特異な広がり方に起因している」ことも明らかにした。
研究チームは、「光のパラメーターを変えると、理論上は分岐の機能をさらに増やすことが可能で、いくらスイッチを集積化しても1分子のサイズは変わらない」という。また、「FE顕微鏡を用いると、分解能を約0.3nmまで改善させることが可能である。今後、1分子に潜む量子の世界を観測できるFE顕微鏡を、手に入れやすい価格で作製したい」とコメントしている。
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