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ここが変だよ 日本の半導体製造装置23品目輸出規制湯之上隆のナノフォーカス(61)(1/5 ページ)

2023年3月、経済産業省は、半導体製造装置など23品目を輸出管理の対象として追加する方針を固めた。だが、ここで対象とされている製造装置、よくよく分析してみると、非常に「チグハグ」なのである。何がどうおかしいのか。本稿で解説したい。

» 2023年04月25日 11時30分 公開

米国による中国への輸出規制

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 2022年10月7日、米国は中国に対して、異次元の厳しさの輸出規制(以下、「10・7」規制)を発表した。その「10・7」規制の表題は“Implementation of Additional Export Controls: Certain Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items; Supercomputer and Semiconductor End Use; Entity List Modification”となっており、全文を印刷すると恐らく160ページを超える膨大な内容である(参考)。

 筆者は、この「10・7」規制の全貌を理解するのに約2カ月かかった。そして、この規制が中国半導体産業を壊滅させる可能性があり、その報復措置として中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる「台湾有事」を誘発する危険性があると推測した。

 それほど「10・7」規制のインパクトは大きく、世界半導体業界のみならず、国際政治や世界経済にも大きな打撃を与えることになると思った。そこで、本コラムにも、2023年1月19日、「なぜTSMCが米日欧に工場を建設するのか 〜米国の半導体政策とその影響」を寄稿した。また、4月20日に文春新書『半導体有事』を出版した。

文春新書『半導体有事』(2023年4月20日出版)

日本とオランダも米国に協力へ

 「10・7」規制について、米国は、日本とオランダにも足並みをそろえるよう協力を要請していた(というより圧力をかけていた?)。そして、日本もオランダも、米国の要請に協力することが報じられた(例えば、2023年1月20日のBloomberg、『日本とオランダ、米主導の対中半導体規制に近く参加へ−関係者』)。

 そして2023年3月31日、経済産業省は、輸出規制対象とする半導体製造装置など23品目を公開し、パブリックコメントを求めることになった。この意見募集は4月29日まで行い、その意見をもとに改正された省令は、早ければことし(2023年)7月から施行される見通しである。

 ここで、経産省がHPで公開した輸出規制対象の半導体製造装置など23品目の詳細は、縦書きのPDF25枚に記載されており、非常に読みにくく分かりにくい。しかし、この内容を、MONOistの三島一孝氏が「7月から半導体製造装置23品目を新たに輸出規制対象に、その対象品目の内訳」(2023年4月6日公開)に、とても分かりやすく箇条書きにしてまとめている。

 そこで、本稿では、三島氏の記事にある半導体製造装置23品目をさらに分かりやすく分類し、その上で、その規制はどのような意味があるのか(またはないのか)を論じたい。結論を一言で述べると、日本の輸出規制23品目は、全部ではないが「とてもチグハグ」で、珍妙であるということだ。パブリックコメントによって修正されることを期待したい。

 以下では、まず、米国の「10・7」規制の概要を振り返る。

米国による中国への「10・7」規制

 「10・7」規制における米国の狙いは、軍事技術に使われる恐れがある中国のスーパーコンピュータ(スパコン)や人工知能(AI)半導体の開発を完全に抑え込むことにある。その際、米国が強みを持っている半導体の設計ツール用およびそのソフトウェアも輸出禁止にしている。加えて、それ以上に決定的に重要な半導体製造等に関する輸出規制のポイントを以下に示す。

(1)中国のスパコンやAIに使われる高性能半導体の輸出を禁止する。その対象には、米NVIDIAの画像処理プロセッサ(GPU)や米AMDのプロセッサ(CPU)はもちろん、米国外で米国の設計技術や装置を使って製造された高性能半導体も含まれる。

(2)また、中国が先端半導体を開発・製造できないように、米国製の製造装置(その部品や部材も含む)の輸出を禁止し、米国人(幹部、研究者、技術者)が関わることを禁止する。この技術者には、装置メーカーが半導体メーカーに派遣して、装置のトラブル対応やメンテナンスを行うフィールドエンジニアが含まれている。「10・7」規制の第1の重要ポイントはここにある。

(3)次に、今まで注目されなかった半導体成膜装置に規制の網をかけた。規制に該当する成膜装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない。先端半導体メーカー向けか、非先端メーカー向けかは関係ない。そして、これが第2の重要ポイントであり、中国半導体にとっては致命傷となる規制である。

(4)さらに、中国の半導体製造装置メーカー向けへ米国製の部品や材料等の輸出することを禁止する。その装置メーカーが開発する装置が先端半導体向けかどうかは一切関係ない。

(5)中国にある外資系半導体メーカー(TSMC、Samsung Electronics、SK hynix)にも規制を適用する。

 ここで、(2)における先端半導体とは、16/14nm以降のロジック半導体、ハーフピッチ18nm以降のDRAM、128層以上の3次元NAND型フラッシュメモリと定義されている。これに該当する中国の半導体メーカーには、ファウンドリーのSMIC、DRAMのCXMT、3次元NANDのYMTCの3社がある。加えて、外資系のTSMCの南京工場(40〜16nmのロジック半導体)、韓国のSamsungの西安工場(3次元NAND)、SK hynixの大連工場(3次元NAND)および無錫工場(DRAM)にも規制の網がかかることになる。

 上記の先端半導体メーカーに対しては、米国の装置メーカーのアプライドマテリアルズ(AMAT)、ラムリサーチ(Lam)、KLAの製造装置の輸出が禁止される。

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