前工程の概要を見てみると、主要な工程の製造装置で、米欧日が世界シェアを独占していることが分かる(図1)。このような中で、「10・7」規制はどのような影響をもたらすのか。
まず、SMIC、YMTC、CXMTなどの中国先端半導体メーカーおよび、TSMC、Samsung、SK hynixは、工場の新増設が不可能になる。先端でなければ可能かというと、その道も閉ざされている。というのは、先端半導体メーカーに対しては、非先端向けの装置の輸出も禁止されているからだ(オフィス家具もダメという徹底ぶりである)。
次に、規制(3)にあるように、半導体成膜装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない。具体的に言うと、AMATとLamのCVD装置(合計世界シェア66.2%)、AMATのスパッタ装置(世界シェア86%)がそれに該当する。
そして驚くべきことに、これら成膜装置について、材料(銅、コバルト、ルテニウム、窒化チタン、タングステン等)、プロセス条件(圧力、温度、ガス等)、成膜の膜厚に至るまで、非常に詳細なところまで規定がある。「10・7」規制では禁輸ではなく許可を申請することになっているが、これはほぼ禁輸と同じであると思われる。
これまでの米国の対中規制は、「16/14nm以降を製造可能な装置は禁止」というように、主に微細化に焦点があった。ところが、「10・7」規制では、微細化に関係する露光装置だけでなく、成膜装置に規制の網をかけた。これが「10・7」規制の最大の特徴である。そう考える根拠は次の通りである。
半導体の製造は、シリコンウエハー上に薄膜をつけるところから始まる。その後にリソグラフィでレジストマスクを作成し、ドライエッチングで実際に薄膜を加工し、洗浄して検査する、ということを30〜70回以上繰り返して作られる(図2)。
ここで重要なのは、あらゆる半導体の製造には、まず成膜が必要だということである。成膜しなければ、その後のリソグラフィやドライエッチングなどの微細加工はできない。「10・7」規制で成膜装置に網をかけたということは、半導体製造の最も上流の工程、すなわち急所中の急所を押さえたということになる。
しかも、その成膜装置の分野で米国は、CVD装置で66.2%、スパッタ装置で86%の世界シェアを独占している。従って、米政府は「10・7」規制で、中国半導体産業の生殺与奪権を握ったことになるのである。
米国は「10・7」規制に加えて、日本とオランダに協力を要請した。オランダのASMLは、露光装置で世界シェア95%を独占している。その中で、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置は既に輸出禁止になっている。そこでASMLは、新たにArF液浸を輸出禁止にするのではないかと予想した。
また、日本では、東京エレクトロン(TEL)とSCREENの2社で、コータ・デベロッパの世界シェア91%を独占している。そこで、この2社がArF液浸用のコータ・デベロッパを輸出禁止にすると予測した。
つまり、米国は「10・7」規制で成膜装置を押さえ、オランダと日本の協力でEUVはもちろんのこと、ArF液浸を使ったリソグラフィ工程を規制し、成膜とリソグラフィで二重の規制を行うのではないかと筆者は予想したわけである。
ところが、日本の経産省が公開した規制対象となる23品目の半導体製造装置等を見ると、筆者の予測は当たったとは言い難い。また、その規制対象の装置は、何だか珍妙なことになっている。
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