冒頭で紹介したMONOistの三島氏の記事を基に、経産省が公開した23品目の半導体製造装置などを分類し、その上で、分析を行う。
A)EUVペリクル
B)EUVペリクル製造装置(EUV用の装置のために設計したものに限る)
C)EUVを用いて集積回路を製造する装置用に調合したレジストを塗布し、成膜し、加熱し、または現像するために設計した装置
D)EUVを用いて集積回路を製造するための装置用のマスクブランクまたは当該装置用のパターン付きのマスクを検査するように設計した装置
E)ステップアンドリピート方式またはステップアンドスキャン方式の露光装置で、光学方式のもののうち、光源の波長が193nm以上のものであり、かつ、nmで表した光源波長に0.25を乗じて得た数値を開口数の値で除して得た数値が45以下のもの
A)はEUV用のペリクル(保護膜)、B)はそのEUVペリクルを製造する装置、C)はEUV用のコータ・デベロッパ、D)はEUV用のマスク検査装置である。ここまでを見て、筆者は、「何か変だ」という思いを持った。というのは、オランダのASMLしかつくることができないEUVは既に輸出禁止となっている。従って、中国にはEUVが1台もない。また中国が独自にEUVを開発することも、永久にとまではいわないが、20年以内には不可能だろう。にもかかわらず、EUV関係の装置や部品を輸出禁止にしたところで、何か意味があるのだろうか?
さらに、露光装置を規制したE)も、「何か変」だ。まずざっと読むと、「光源の波長が193nm以上のもの」とある。一瞬、波長193nmのArF液浸とArFドライ、KrF(248nm)、i線(365nm)の全てが輸出禁止になるのかと驚いた。
ところが、その後に続く「nmで表した光源波長に0.25を乗じて得た数値を開口数の値で除して得た数値が45以下のもの」を実際に計算してみると、次のようになった(図3)。つまり、λ×k÷NAを計算して45以下になる露光装置として、輸出規制の対象となるのは、ニコンがつくっているArF液浸のみである。筆者は、「何という紛らわしい書き方をするのか」とムカッとした。最初から簡単に、ArF液浸またはImmersionと書けばいいじゃないか。
さらに、チクハグだと思うのは、E)で分かりにくい書き方でArF液浸露光装置を規制対象に挙げているのに、C)のコータ・デベロッパでは、EUV用のみを規制対象としていて、ArF液浸用は規制対象になっていないことである。
経産省は、意図的にチグハグにしているのか、それともよく理解できずに混乱してこのようになっているのか? 「EUV関連はダメ」にするのか「ArF液浸関係もダメ」にするのか、方針を明確にして欲しいと思う。
F)ドライエッチング用に設計した装置であって、次のいずれかに該当するもの
F-1)等方性ドライエッチング用に設計し、または改造した装置であって、シリコンゲルマニウムのシリコンに対するエッチング選択性の比率が100倍以上であるもの
F-2)異方性ドライエッチング用に設計および改造した装置で次の全てに該当するもの
F-3)異方性エッチング用に設計した装置であり、誘電体の材料に対してエッチングの幅に対する深さの比率が30倍を超え、かつ、幅寸法が100nm未満の形状を形成することができるもので、高周波パルス出力電源を1つ以上持ち、切り替え時間が300ミリ秒未満の高速ガス切り替え弁を1つ以上持つもの
F-1)はGAA(Gate All Around)構造のトランジスタを形成する際に必要な等方性ドライエッチング装置である。このエッチング装置によって、SiとSiGeの積層膜のうち、SiGeだけを除去する。しかし、ここで、「シリコンに対するエッチング選択性の比率が100倍以上」ということに、やや引っ掛かる。
もし筆者がこの規制に基づいて、エッチング装置を輸出する場合、「SiGeのSiに対するエッチング選択比は90です」というように申請するだろう。選択比は高いほどいいが、恐らく選択比90でも、GAAの形成は可能だと思う。つまり、この輸出規制は簡単にすり抜けることができる。
しかし、GAA構造のトランジスタを採用するのはテクノロジーノード3〜2nm辺りからであり、中国のSMICなどは、当分そこには到達できない。また、EUVを入手できなければ、それこそ永遠にGAAをつくるには至らないかもしれない。そのため、この規制に意味があるのか、筆者は疑問に思う。
といっても、F-1)は、F-2)やF-3)に比べれば、まだ「まし」だ。というのは、「F-2)やF-3)のドライエッチング装置は、そもそも世に中に存在するのか?」という疑問があるからである。
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