米国の「10・7」規制に協力するために、日本の経産省が輸出規制対象となる半導体製造装置等23品目を公開した。しかし、その23品目を詳しく見ると、チグハグであり、珍妙であると思わざるを得なかった。要点をまとめると以下の通りである。
1)中国へのEUV輸出は禁止になっているにもかかわらず、EUV関連の装置や部品が軒並み輸出規制の対象となっている。これは意味があることなのか?
2)わざとややこしい記載でArF液浸露光装置を輸出規制の対象に挙げているが、ArF液浸用のコータ・デベロッパは輸出規制の対象になっていない。矛盾していると思う。
3)ドライエッチング装置が2品目、輸出規制の対象になっているが、いずれも「切替時間が300ミリ秒未満の高速ガス切り替え弁」を持つ装置と明記されている。しかし、そのような高速ガス切り替えが可能なドライエッチング装置は存在せず、また、存在したとしても意味がない。
4)米国の「10・7」規制よりも広い範囲の成膜装置が規制対象となっているが、そもそも、日本のCVD装置のシェアは6.2%、スパッタ装置のシェアは5%しかない。そんなわずかなシェアしかない成膜装置を規制して意味があるのだろうか?
経産省は、パブリックコメントを4月29日まで募集している。まともな意見が寄せられて、整合性のある、そして意味のある輸出規制になればいいと思うが、果たしてどうなることやら……。筆者には懸念しかない。
冒頭でも紹介しましたが、4月20日に文春新書『半導体有事』を出版しました。米国による「10・7」規制、微細化の最先端を独走するTSMC、クルマ用半導体不足はいつまで続くのか、日本の装置や材料は大丈夫なのか、半導体の新会社Rapidus(ラピダス)についてなど、ホットな話題が満載です。ご一読いただければ幸いです。
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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