ドイツで開催されたパワーエレクトロニクス関連の展示会「PCIM Europe 2023」で、シリコン並みのコストで縦型GaNパワートランジスタの実現を目指す欧州のコンソーシアム「YESvGaN」が、その取り組みを紹介した。
世界最大規模のパワーエレクトロニクス展示会「PCIM Europe 2023」(2023年5月9〜11日、ドイツ)において、シリコン並みのコストで縦型GaN(窒化ガリウム)パワートランジスタの実現を目指す欧州のコンソーシアム「YESvGaN」が、その取り組みを紹介していた。
近年、SiC(炭化ケイ素)およびGaN(窒化ガリウム)を始めとしたワイドバンドギャップ(WBG)パワー半導体の開発/市場導入が加速しているが、シリコンと比べ高コストであるという課題は残ったままだ。また、GaNパワーデバイスには、シリコンウエハー上にGaN活性層を形成する「横型」と、GaN基板をそのまま使用する「縦型」がある。シリコンウエハーを用いる横型は比較的低コストでGaNの高周波特性を得られるものの、650V以上などの高耐圧を求める場合には不向きだ。一方の縦型は、横型に比べ高電圧、大電流に適するが、GaNウエハーは高コストで、またサイズも2〜4インチ程度と小径だ。
YESvGaNはこうした課題の解決に向け、シリコン並みのコストで縦型WGBトランジスタの性能を実現する新たな縦型GaNパワートランジスタの実証を目指す欧州の研究プロジェクトで、2021年に始動した。YESvGaNコンソーシアムはRobert BoschやSTMicroelectronics、Soitec、Siltronic、AIXTRON、X-FABなどの企業やドイツの研究機構Fraunhofer IISB、 Ferdinand Braun Institute、ベルギーのゲント大学やスペインのバレンシア大学など、7カ国に拠点を置く23社/組織で構成していて、EUの研究開発プログラム「ECSEL JU」および欧州各国の資金提供を受けている。
同研究は、シリコンやサファイア基板上でのGaNのヘテロエピタキシャル成長によるコストメリットを得つつも、縦型の特性を両立するという方向で進められている。
そもそもGaN on Silicon(シリコン基板上へのGaNの成長)で縦型を作れないのは、絶縁性のバッファー層が必要となるためだ。また、サファイアはそれ自体が絶縁体だ。そこで同プロジェクトは、GaN成長後にデバイス領域直下にあるバッファー層やシリコンおよびサファイア基板自体を取り除き、裏側から直接金属コンタクトでGaN層と接続する「縦型GaNメンブレントランジスタ」の開発を進めている。目標は、300mmまでのシリコンやサファイアウエハーを用いた耐圧650〜1200Vクラスの縦型GaNパワートランジスタの実現で、実現すると厚さ数マイクロメートルながら、縦型構造のメリットとGaN on SiliconあるいはGaN on Sapphireの低コストの両立が可能になるとしている。
YESvGaNではこの実現に向け、参画企業/組織がそれぞれ下記のような各ステップで研究を進めているという。
今回のPCIMでは複数の参画企業/組織が各ブースで、YESvGaNの取り組みを紹介。Robert Boschのブースの一角では、プロジェクトコーディネーターのChristian Huber氏が担当していた。
ブースでは、ダイオードのブレークダウン電圧が500Vを超えるスタック層をシリコンやサファイア上に成長させたこと、150mmのGaN on Siliconウエハーからシリコンを除去し、厚さ4μmのGaN膜を最大直径5mmのサイズで欠陥なく形成したこと、ショットキーダイオードを備えた縦型デバイスの実証実験を行ったことなど各ステップでの進展の様子を紹介。また、実際にGaNのデバイス領域からシリコンを取り除いたウエハーなども展示していた。
Huber氏は、「現時点では最終的なトランジスタが完成しているような段階ではない。また、われわれはあくまでこの技術が実現可能か実証することを目的として研究を進めているが、同技術が実現すれば、縦型GaNの量産化が加速できると期待している」と話した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.