三菱電機は、新たなチップ構造を採用した「SBD内蔵SiC-MOSFET」について、記者説明会を行った。並列接続したSBD内蔵SiC-MOSFETのサージ電流耐量をこれまでの5倍以上に高めたことで、Siパワーモジュールとほぼ同等のサージ電流耐量が得られるという。
三菱電機は2023年6月1日、新たなチップ構造を採用した「SBD内蔵SiC-MOSFET」について、記者説明会を行った。並列接続したSBD内蔵SiC-MOSFETのサージ電流耐量をこれまでの5倍以上に高めたことで、Siパワーモジュールとほぼ同等のサージ電流耐量が得られるという。
同社は、鉄道車両や直流送電など大型産業機器に向けて、定格電圧3.3kV、定格電流800AのフルSiC(炭化ケイ素)パワーモジュール「FMF800DC-66BEW」を2023年5月に発表した。これに搭載しているのが、SiC-MOSFETとSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を一体化したSBD内蔵SiC-MOSFETである。
一体化することで、個別にチップを組み合わせて実装する場合に比べ、パワーモジュールの小型化や大容量化が容易であり、スイッチング損失も低減できるという。半面、接続した回路でサージ電流が発生すると、チップが熱破壊する可能性があるなど、実用レベルでは課題もあった。
そこで三菱電機は、パワーモジュール内で並列接続されたチップ構造において、サージ電流が特定チップに集中するメカニズムを解明した。この結果、各チップの寸法ばらつきがその要因だと分かった。わずか0.1μm程度のばらつきでも、SBD幅が狭いチップにサージ電流が集中するという。「この程度の寸法ばらつきは、製造する上で避けて通れない」という。
こうした課題に対し同社は、特定チップに対するサージ電流の集中を防ぐための、新たな構造を開発した。それは、チップ面積全体のユニットセルのうち、1%未満は「SBDを配置しないユニットセル」としたことだ。
SBDが存在しないユニットセルは、寸法のばらつきに関係なく、通常のユニットセルに比べて、より早くサージ電流が流れる。その後、サージ電流は周囲のユニットセルに広がり、チップ全体にサージ電流を分散させることで、特定チップの熱破損を防ぎ、サージ電流耐量を向上させた。
新たなチップ構造としたことで、通常のユニットセル数はわずかに少なくなるが、オン抵抗やスイッチング損失など、パワーモジュール特性への影響はない、という。
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