Pd系形状記憶合金を開発、エネルギーロス約1/100に:低温で2500ppm以上の巨大磁歪
東北大学は、動作に伴うエネルギーロスを従来と比べ約100分の1に抑えたパラジウム(Pd)系形状記憶合金を、東京大学と共同開発した。さらに、100K(−173℃)付近の低温環境で、2500ppm以上の巨大磁歪を実現した。
東北大学大学院工学研究科博士後期課程の伊東達矢氏(研究当時)と許s助教らによる研究グループは2023年6月、動作に伴うエネルギーロスを従来と比べ約100分の1に抑えたパラジウム(Pd)系形状記憶合金を、東京大学と共同開発したと発表した。さらに、100K(−173℃)付近の低温環境で、2500ppm以上の巨大磁歪を実現した。
形状記憶合金は、任意に変形させても加熱すると形状が元に回復する材料。センサーやアクチュエーターに応用されている。この中には、磁場にも応答して形状記憶効果が表れる材料もあり、高速動作が可能になるという。
研究グループは2006年に、ニッケル・コバルト・マンガン・インジウム(NiCoMnIn)系形状記憶合金を開発した。磁場で形状記憶効果が得られる材料で、100Hzを超える動作周波数を達成した。ただ、低温ではエネルギーロスが大きくなり、20J/mol以上に達するなど課題もあった。
そこで今回は、パラジウム・マンガン・ガリウム(Pd2MnGa)合金を開発した。開発した合金のエネルギーロスは、110〜120Kの温度範囲において最小0.3J/mol以下である。この値は、従来の合金に比べ約100分の1だという。
左は開発したPd系形状記憶合金と従来合金との磁場駆動でのエネルギーロスの比較。右は開発したPd系単結晶合金における低温の磁歪特性[クリックで拡大] 出所:東北大学
開発したPd2MnGa形状記憶合金および従来合金の磁場誘起相変態の挙動 出所:東北大学
さらにパルス強磁場を用いて、水素およびヘリウムの沸点(もしくは液化温度)までの極低温におけるエネルギーロスを、東京大学と共同で調べた。この結果、開発した合金は極低温でエネルギーロスが大きくなる傾向はあるものの、その値は従来の合金より極めて小さいことが分かった。
開発したPd2MnGaと従来合金の各温度におけるエネルギーロスの比較 出所:東北大学
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