日本原子力研究開発機構は、絶縁体の薄膜を用いることで、従来型インダクター(コイル)と同等の電力効率を維持しつつ、インダクターの厚みを1万分の1(約10nm)にできる原理を考案し、理論的に検証したと発表した。
日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)先端基礎研究センタースピン−エネルギー科学研究グループの荒木康史研究副主幹と家田淳一研究主幹は2023年6月、絶縁体の薄膜を用いることで、従来型インダクター(コイル)と同等の電力効率を維持しつつ、インダクターの厚みを1万分の1(約10nm)にできる原理を考案し、理論的に検証したと発表した。
従来型のインダクターは、導線を巻いたコイルが一般的であった。このため、少なくとも0.1mmの厚みが必要となっていた。2019年にはコイルを用いない「創発インダクター」が提案されたが、インダクター動作時のQ値(品質係数)が0.01を下回るなど、電力効率が大幅に悪化するという課題があった。
研究グループは今回、インダクターの小型化と省電力化を両立させることができる物質「トポロジカル絶縁体」に着目した。トポロジカル絶縁体は、表面だけに電流が流れ、その表面では、「トポロジカル電磁応答」と呼ばれる、電気と磁気の相互変換が強く働くという。研究グループは、表面での電気と磁気の相互変換を最大限に活用するため、トポロジカル絶縁体の表面に磁性絶縁体を積層した。
トポロジカル電磁応答に関連する動作について、電流と電圧の関係式を基礎理論から導き出した。この結果、低周波数から高周波数(約10Hz〜10GHz)まで広い領域において、インダクターとして動作することを確認した。
今回の研究成果により、トポロジカル絶縁体は膜厚が約10nmでも絶縁体として機能することが分かった。しかも、磁性絶縁体は薄くするほど大きなインダクタンスが得られるという。このため、これらの絶縁体を積層した素子は、コイルに比べ約1万分の1まで薄くできる。
また、絶縁体インダクターにおけるQ値は最大約1000(動作周波数0.1GHzの場合)となる。この値は、従来型インダクターの最高値に匹敵。創発インダクターに比べると約10万倍の電力効率に相当するという。
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