東芝は2023年9月、LiDARの取得データのみで物体を98.9%の精度で認識し、99.9%の精度で追跡できる技術を開発したと発表した。また、悪天候環境下での検知距離を向上する技術や、計測範囲の柔軟性を向上する技術も開発した。
東芝は2023年9月26日、LiDARの取得データのみで、自動車や人などの物体を98.9%の精度で認識し、99.9%の精度で追跡できる技術「2D・3DフュージョンAI」を開発したと発表した。LiDARから得られる2次元データと3次元データをAI(人工知能)を用いて融合/処理することで、カメラ不要で物体を認識/追跡できるという。
近年、あらゆる産業の効率化に向け、センシング技術とAIを活用して工場や都市空間全体をバーチャル上に忠実に再現する「空間のデジタルツイン」の需要が高まっている。空間のデジタルツインの構築には、夜間、雨/霧といった悪天候の環境下でも広範囲/高精度で空間をセンシングしたり、高精度に物体を認識・追跡したりする技術が不可欠であり、その実現を可能にする技術として期待されているのがLiDARだ。
従来の物体認識/追跡方法は、カメラとLiDARを使い、取得したデータを用いて学習したAIモデルが使用されている。AIモデルの適用には、カメラとLiDARの画角やフレームレートを合わせ込み、空間的にも時間的にも2種類のデータを精密に同期させる必要がある。しかし、実際は、カメラとLiDARの物理的な設置場所が異なるため画角にズレが生じる他、振動などの影響により画角やフレームレートの同期が難しく、認識精度が大きく劣化するという課題があった。
今回発表した技術は、こうした課題を解決するものだ。東芝はLiDARのみで2次元(2D)データと3次元(3D)データを取得できることに着目。2Dデータと3DデータはLiDARの同じ画素から同じタイミングで読み込まれるため、合わせ込みが不要で、認識精度の劣化が起こらない。担当者は、認識精度について「従来技術は、暗所では認識可能な距離が限られ、50m先の物体を認識する際に約2mの誤差が生じる。対して、今回の技術は、暗所でも無照明で認識可能で、50m先の物体を認識する際の誤差が5cmだ」と説明した。
東芝は、LiDARの計測精度を劣化させる環境光(雨や霧からの反射光)の影響を最大限緩和できる「雨・霧除去アルゴリズム」や、LiDARの計測距離や画角を設置場所に応じて自在に変更できる「計測範囲可変技術」も同時に発表した。
LiDARでは赤外レーザーを用いるが、赤外光は水分に当たると吸収/散乱される性質があり、雨や霧、雪といった環境下では計測精度が低下し、検知可能距離が短くなってしまうという課題があった。東芝が開発した雨・霧除去アルゴリズムでは、同社が内製したA-DコンバーターをLiDARに組み込み、計測した反射光強度のデジタル値を基に、水などの散乱粒子による反射光の特徴量から、雨や霧なのか、計測対象なのかを判別。雨や霧と判別したらその波形ごと取り除くことで、環境光の影響を緩和する。
同社は、実環境を模した実験設備を使い、従来技術と同アルゴリズムを適応したLiDARの検知可能距離を計測/比較した。結果、80mm/hの猛烈な雨環境では、従来技術は検知可能距離が20mなのに対し、同アルゴリズムを適用したLiDARでは40mだった。また、視程40mの霧環境では、従来技術が17mだったのに対し、同アルゴリズムを適用したLiDARでは35mと、従来の2倍以上に向上することを確認した。
東芝によると、LiDARの計測範囲を決める計測距離と画角は、トレードオフの関係にあり、両方の性能を向上させることは難しかったという。同社は今回、投光器の台数と受光レンズの構成を変更し、複数のLiDARから得られる情報を融合することで、計測距離の伸長および広画角化を実現する「計測範囲可変技術」を開発した。実験では、画角24度(水平H)×12度(垂直V)において計測距離350mを、画角60度(水平H)×34度(垂直V)において計測距離120mを実現したという。
今後について担当者は「LiDARの耐震性や耐熱性の研究を進め、2025年の実用化を目指している」とコメントした。
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