東北大学は、近赤外波長は反射し5G/6G用の電波(可視波長)は透過する、ナノ周期構造の「アルミ製遮熱メタマテリアル」を開発した。建物や自動車の窓ガラスに応用すれば、室内や車内の温度上昇による熱中症の発症や電力の消費量を抑えることが可能となる。
東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らによる研究グループは2023年10月、近赤外波長は反射し5G(第5世代移動通信)/6G(第6世代移動通信)用の電波(可視波長)は透過する、ナノ周期構造の「アルミ製遮熱メタマテリアル」を開発したと発表した。建物や自動車の窓ガラスに応用すれば、室内や車内の温度上昇による熱中症の発症や電力の消費量を抑えることが可能となる。
地球温暖化による気温の上昇は、電力の消費量拡大や熱中症の発症数が増えるなど、大きな社会問題となっている。この解決策の1つとして、遮熱効果を備えたガラスなどが開発されてきた。ところが一般的な遮熱ガラスは、5G/6Gで用いられる帯域の電波も反射して遮断するなど、実用面では課題もあった。
今回作製したアルミ製遮熱メタマテリアルは、3.3×4.0cmの領域内にメタマテリアル構造を均一に形成している。具体的には、石英ガラス基板上にアルミを用いた十字パターンのメタマテリアル単位構造が、460nmの周期で二次元周期状に形成されている。
研究グループは、作製した遮熱メタマテリアルの可視波長から近赤外波長までの領域における反射率特性と6G帯域における透過率特性を測定した。この結果、近赤外波長(約1.1μm、周波数約273THz)では反射率が80%超となり、ある領域では最大反射率86.1%が得られた。
一方、テラヘルツ波領域における透過率特性は、テラヘルツ時間領域分光法を用いて測定した。この結果、6Gで用いられる0.2T〜0.3THz付近の周波数帯では、80%程度の高い透過率となった。これらの実験値は、いずれも有限要素法に基づく電磁界の数値計算結果と、よく一致しているという。5Gで用いられる28GHz帯の周波数に対しても、80%程度の透過率が得られることを実験により確認した。
これらの結果から、大気温度を高める近赤外の周波数(約273THz)は反射して遮断する。これに対し、5G帯域(28GHz帯)/6G帯域(0.2T〜0.3THz)では実用レベルの透過率特性が得られることを実証した。
遮熱メタマテリアルの可視波長領域における透過率特性も調べた。これによると、作製した遮熱メタマテリアルは、可視波長範囲で最大77.2%の透過率となり、傾斜角60度での透過率も約50%以上となった。遮熱メタマテリアルの背後にある風景も、広い傾斜角度の範囲で、明瞭に撮影できたという。
研究グループによれば、遮熱メタマテリアルは半導体微細加工技術を用いて作製できるため、メタマテリアルの形状や寸法を調整すれば、反射ピーク波長をチューニングできるという。また、ナノインプリント技術などを用い、安価で大面積の遮熱メタマテリアルを実現できるとみている。
今後は、2022年に設置したメタマテリアル専門の研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」をベースとして、実装化に向けた研究を加速させる。
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