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縦型GaNパワー半導体のブレークスルーに、新技術の詳細と展望信越化が育ててOKIが剥がす(3/4 ページ)

» 2023年10月18日 11時30分 公開
[永山準EE Times Japan]

「業界の勢力図を塗り替えるブレークスルー」

 OKIのCFB技術については、同社イノベーション事業開発センターCFB開発部デバイス応用チームのチームマネジャー、谷川兼一氏が説明を行った。

 CFB技術は、さまざまな基板から機能層のみを剥離し、分子間力を利用して異なる素材の基板などに接合するOKIの独自技術。もともと、同社が手掛けるプリンタに搭載されている印字ヘッド用LEDアレイの小型化および低コスト化に向け開発されたものだ。具体的には、化合物半導体から成るLEDのクリスタルフィルムを剥離して、シリコンから成るドライバーIC上に直接接合して一体化している。

CFBソリューションの特長[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業 CFBソリューションの特長[クリックで拡大][クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業

 同社によると、CFB技術は2006年に実用化し、既にプリンタ事業で1000億ドットの出荷実績があるというが、これまで、その活用の範囲は自社製品にとどまっていたという。そうした中、2022年7月頃に信越化学のGaN on QST基板と出会い、今回のQST基板とCFB技術を組み合わせた新技術の開発につながったという。OKIイノベーション事業開発センターCFB開発部長の鈴木貴人氏は、「話を聞いた瞬間、両社の共創技術はパワー半導体業界の勢力図を大きく塗り替えるブレークスルーになると、双方で瞬間的に確信した」と述べていた。

「基板のリサイクルも可能」新技術の詳細

 両社の発表した新技術では、QST基板でGaN層を成長させた上で、GaN機能層のみを剥離し別のさまざまな基板上に、「オーミックコンタクト」(オームの法則に従った線型の電流-電圧曲線を有する電気的接合)が可能なメタル層(チタンアルミなど)を介して接合する。この際バッファー層やシリコン(111)も除去可能なので、縦型導電が実現できるという。前述のように8インチのQST基板が2インチのGaN基板と同程度の価格であることから、新技術で縦型GaNパワーデバイスを製造する場合、従来のGaN on GaNパワーデバイスと比較してコストを10分の1以下に低減できる、としている。

CFBソリューションの特長[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業 CFBソリューションの特長[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業

 また、QST基板は、CFB技術でGaN機能層が剥離された後も、無傷とまではいかないものの一定の処理をすれば再びQST基板として活用可能という。現在、この基板リサイクルの技術も開発中で、再利用が実現すれば、さらなる低コスト化が可能になると、期待を見せていた。

 なお、CFB技術では、半導体ウエハーと同等の表面平たん性があればさまざまな基板と接合ができるという。具体的にはシリコンのほか、SiCやGaN、GaAs(ガリウムヒ素)、InP(インジウムリン)など化合物半導体ウエハーおよび、ガラスウエハーといった基板への接合が可能となる。

GaN機能層を接合した6インチウエハーを紹介するOKIのイノベーション事業開発センターCFB開発部デバイス応用チームのチームマネジャー、谷川兼一氏[クリックで拡大] 出所:OKI GaN機能層を接合した6インチウエハーを紹介するOKIのイノベーション事業開発センターCFB開発部デバイス応用チームのチームマネジャー、谷川兼一氏[クリックで拡大]出所:OKI

 OKIのCFB技術は現在6インチ対応が可能だ。今回の会見では、6インチウエハー全体にGaN機能層を接合した実物を紹介していた。谷川氏は、まだ歩留まりは悪いとしつつも、「(CFB技術の工程には)剥がす、運ぶ、貼るがあるが、最も難しいの剥がす部分だ。ウエハー内部のバラつきを吸収するような設計にする必要があるが、そうした剥がし方を極め追求していくことで量産適応は可能」と説明している。同社はさらに、8インチ対応についても、「2025年のR&D着手を目標に準備を進めている」と説明。また、対応可能なGaN層の厚みについては「現時点で7μmまで実績がある」という。1800V以上などといった高耐圧化には20μm程度の厚みが求められてくるが、この点に関しても「今後の開発によって達成可能と考えている」としている。

 QST×CFB技術によって実現できる縦型GaNパワーデバイスとGaN on GaNデバイスの特性を比較する場合、「欠陥密度をみると、われわれの(QST×CFB技術によるGaNエピ層)は5×106程度なのに対し、GaN on GaNは5×104程度までいっている。そのため特性に関しては、現時点ではかなわないが、コスト面では大きな優位性がある。また、今後の開発によっては、欠陥密度も5×105程度まで向上可能とみている」としている。

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