内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の高市早苗氏が「CEATEC 2023」で基調講演を行った。産業界でのAI(人工知能)導入の重要性を語り、政府の取り組みを紹介した。
内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の高市早苗氏は2023年10月17日、「CEATEC 2023」(幕張メッセ)にて「AIがもたらす社会変革」と題した基調講演を行った。産業界でAI(人工知能)、特に生成AIの導入を進めることの重要性を語り、それに向けた政府の取り組みを紹介した。
高市氏は国内における生成AI活用について、一部のビジネスでは問い合わせ対応や議事録作成などで業務効率化に向けた活用が始まっていることに触れたほか、医療機関や行政機関でも認知症や虐待の発見に活用が見込まれると紹介した。材料開発や創薬、防災、サイバーセキュリティ、食糧生産など地球規模の課題解決に向けても利用できるとし、「イノベーションの創出につながる可能性が大きく開けている」と期待を寄せる。
一方で、AIの利用拡大にはリスクも存在する。犯罪の巧妙化など意図的な悪用以外にも、企業が生成AIを用いて作成したパンフレットなどが意図せずに他者の権利を侵害してしまう場合が想定される。高市氏は「リスクへの対応は政府にとっても、産業界にとっても必要不可欠だ」と強調した。
また、産業界でのAI活用において、リスク管理以外で重要な視点は「日本の競争力の強化」だという。高市氏は「日本のIT企業がAI開発力を身に着けることはもちろん、非IT産業がAI導入の遅れによって競争力を失わないようにすることも重要だ」と語った。
高市氏は、日本政府のAI利活用に向けた取り組みも紹介した。2023年5月からは東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏を座長とする「AI戦略会議」の会合を重ねている。メンバーは8人中7人が40代以下という年齢構成で、高市氏は「次世代のことを、次世代を担う方々に議論してもらう」とその意義を説明する。
AI戦略会議では「国際的な議論とリスクへの対応」「AIの最適な利用」「AI開発力の強化」の3点が特に重要だと整理し、各領域でのAI利活用に向けたガイドラインの策定や注意喚起を行ってきた。現在検討中だというAI事業者向けのガイドラインは、「信頼できるAIシステムの開発/提供/利用を目的に、AIに関連する事業者に求められる順守事項を記載する予定」(高市氏)だ。具体的には関係法令を順守すること、システムの安全性/公平性/透明性/説明可能性を確保することなどを順守事項として検討しているという。
日本のAI開発力の強化については、大量の計算資源の確保のためのデータセンター拡充を政府が支援していくという。ただしそれには時間がかかるため、「まずは外資系のクラウドサービスを借り、モデル開発の支援を進める」(高市氏)とした。また、データセンターでの膨大な電力消費に対応するため、省エネルギーに貢献する半導体の開発支援に取り組むという。ほかに、偽情報対策、中小企業や医療機関でのAI利用の促進なども進めていくとした。
政府はこうした取り組みを進めるため、令和6(2024)年度の当初予算ではAI関連予算として過去最高の約1600億円を要求していて、補正予算も検討しているという。
高市氏は「AIの開発には膨大なリソースが必要となるため、現在は寡占状態にあり、健全な状態ではない」と指摘。「将来的にデータセンターの大容量/低コスト/省エネ化が進むとAI関連産業はさらに拡大し、テクノロジー関連の産業の重要性は増していく」「AI技術はまだ黎明期で、私たちは歴史の出発点に立っている。後で振り返って『あの時が転換点だった』と思われるのが2023年のCEATECかもしれない」と期待を込めた。
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