東京大学の研究グループは、大容量強誘電体メモリに実装可能な二酸化ハフニウム(HfO2)系強誘電体を用いたキャパシターが絶縁破壊に至る過程を、電極越しに可視化することに成功した。
東京大学の研究グループは2023年10月、大容量強誘電体メモリに実装可能な二酸化ハフニウム(HfO2)系強誘電体を用いたキャパシターが絶縁破壊に至る過程を、電極越しに可視化することに成功したと発表した。
HfO2系強誘電体は、「膜厚が10nm以下でもリーク電流を抑えて強誘電性を示す」ことや、「大きな保持電界を持つ」こと、「10ナノ秒以下でスイッチングが可能」なことから、大容量強誘電体メモリに向けた材料として注目されている。ただ、保持電界が絶縁破壊電界に匹敵する大きさのため、低い耐久性が課題となっていた。
FeRAMをワーキングメモリとして用いるには、109〜1015回の書き換え耐性が求められるという。ところが、HfO2系強誘電体キャパシターの書き込み耐性は106〜109回にとどまっている。この回数を増やしていくには、絶縁破壊を抑えなければならず、電極を透かして観察するなど非破壊的な方法で絶縁破壊に至る過程を解明する必要があった。
そこで研究グループは、レーザー励起光電子顕微鏡(Laser-PEEM)に電気計測システムを実装した「オペランドLaser-PEEM」装置を開発した。この装置は3つの大きな特長を備えている。1つ目は、収差補正技術と連続波レーザーを組み合わせることで、約3nmの解像度を実現できること。2つ目は、4.66eVという低いエネルギーのレーザーを用いることで、欠陥に敏感な測定が行え、かつ約100nmの検出深さを備えていること。3つ目は、顕微鏡観察と同時に書き換え耐性を評価できることから、書き換え電圧印加を除き、デバイスの特性変動要因を排除できることである。
開発した装置で、Hf0.5Zr0.5O2を用いたクロスバー型キャパシターの絶縁破壊過程を調べた。これにより、絶縁破壊後の電気伝導パスを、30nm厚の電極越しに可視化した。しかも、絶縁破壊の直前にリーク電流がわずかに増えるという「前兆」を確認した。この時、キャパシターは4分の1程度の範囲において欠陥密度が増加する様子を可視化した。
これらの結果から、キャパシターの一部領域でのみ欠陥密度が増加し、これに伴って抵抗が変化するということが明らかになった。今回、可視化に成功した伝導パスは、一般的な走査型電子顕微鏡だと観測するのが難しいという。
今回の研究は、東京大学物性研究所の藤原弘和特任研究員、同大学大学院新領域創成科学研究科のバレイユ・セドリック特任研究員(研究当時)、谷内敏之特任准教授、同大学の辛埴特別教授らの研究グループと、東京大学生産技術研究所の糸矢祐喜大学院生(工学系研究科博士課程)、同大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センターの小林正治准教授らによる研究チームが共同で行った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.