東京大学は、光位相器を強誘電体トランジスタで駆動させる新たな手法を開発した。強誘電体中のメモリ効果を利用することで、光位相器の不揮発化に成功した。
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の竹中充教授と唐睿特任助教、渡辺耕坪大学院生(研究当時)、トープラサートポン・カシディット准教授、高木信一教授らは2023年10月、光位相器を強誘電体トランジスタで駆動させる新たな手法を開発したと発表した。強誘電体中のメモリ効果を利用することで、光位相器の不揮発化に成功した。
生成AI(人工知能)などに対応できる新しいコンピューティング技術の一つとして、シリコン光回路を用いた光演算が注目されている。これを実現するには、光回路中に多数の光位相器を集積し、光信号を制御する必要がある。ところが、従来用いられてきたほとんどの光位相器は、電源を切ると光位相情報が消えていた。このため、常に電源を「オン」にしておく必要があり、無駄になる電力消費が課題であった。
研究グループは今回、化合物半導体薄膜とシリコン光導波路を組み合わせた「ハイブリッド光位相器」を、強誘電体トランジスタで駆動させる手法を新たに開発した。ハイブリッド光位相器は、シリコン光導波路上に化合物半導体薄膜を貼り合わせた構造である。電圧を加えると、効率よく光位相を制御できるという。
一方、強誘電体トランジスタは、ゲート絶縁膜にHf0.5Zr0.5O2を用いており、強誘電体中の自発分極の向きに応じて、トランジスタのしきい値電圧(Vth)を制御できる。この強誘電体トランジスタをソースフォロワ回路として動作させると、しきい値電圧に応じてソース端子への出力電圧(Vo)が変化する。この出力電圧でハイブリッド光位相器を駆動させれば、しきい値電圧に応じた光位相の変化が得られるという。強誘電体の自発分極は電源を切っても保持されるため、光位相の情報が消えることはない。
研究グループは、強誘電体トランジスタをソースフォロワ動作させたときの、出力電圧特性を測定した。強誘電体トランジスタのしきい値電圧が「高い状態(High-Vth state)」と「低い状態(Low-Vth state)」では、出力電圧が異なるメモリ機能が得られた。例えば、ゲート電圧が0.8Vだと、出力電圧差は0.78Vとなった。また、光スイッチの透過波長特性では、光の干渉効果で光出力が小さくなる波長にズレが生じた。このズレは光位相が異なることを示すものだという。
メモリ機能の多値動作についても検証した。強誘電体トランジスタにリセット電圧パルスを印加したあと、10ミリ秒幅の電圧パルスを加え、しきい値電圧を変化させていった。この結果、パルス電圧の振幅を大きくしていくと、保持される位相変化量も変化することが分かった。
研究グループは今後、ハイブリッド光位相器と強誘電体トランジスタを一体集積することで「光電融合深層学習プロセッサ」などの実用化研究を行っていく計画である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.