東京大学は、熱揺らぎで物質表面に現れる熱励起エバネッセント波を、ナノスケール分解能で分光測定する技術を開発した。パワー半導体素子設計時の熱励起雑音評価に適用できる技術だという。
東京大学大学院工学系研究科博士課程の佐久間涼子大学院生と同大学生産技術研究所の林冠廷特任助教(いずれも研究当時)および、梶原優介教授は2023年10月、熱揺らぎで物質表面に現れる熱励起エバネッセント波を、ナノスケール分解能で分光測定する技術を開発したと発表した。パワー半導体素子設計時の熱励起雑音評価に適用できる技術だという。
半導体デバイスでは、配線幅の最小寸法が10nm以下になると、配線パターン内で生じる熱励起雑音が大きな課題となる。しかし、従来技術ではこの雑音信号を同定することが極めて難しかったという。
研究グループはこれまで、熱揺らぎに起因する熱励起エバネッセント波に着目し、熱励起雑音を評価する技術の開発に取り組んできた。そして、先端径が50nm以下のタングステン探針で表面電磁波を散乱させ、クライオスタット内の光学系で検出する「パッシブ近接場顕微鏡」を開発。これを用い、20nmの空間分解能による熱励起エバネッセント波の検出に成功していた。ただ、分光測定ができないため、物質表面ダイナミクスの詳細な評価はできていなかった。
そこで今回、パッシブ近接場顕微鏡にグレーティング型の分光光学系を導入し、熱励起エバネッセント波の分光測定を行った。測定に当たっては、検出信号がノイズに埋もれないよう、分光光学系を4.2Kのクライオスタット内に組み込んだ。
実験では、GaN(窒化ガリウム)とAlN(窒化アルミニウム)を用いて測定波長を変えながら各波長における減衰曲線を測定した。そうしたところ、表面フォノン共鳴波長に「近い」場合と「遠い」場合とでは、減衰曲線に極めて特徴的な差が現れることを発見した。
波長14μm近傍で減衰曲線を計測すると、表面フォノン共鳴波長が遠い(11.8μm)AlNは、数10nmで減衰することが分かった。これに対し表面フォノン共鳴波長が近い(14.1μm)GaNだと、共鳴波長と同じ波長でなければ信号は観測されず、減衰距離も数百nmであった。
研究グループによれば、これらの知見は「熱励起エバネッセント波の基礎理論」と異なる結果だという。一方で、パワー半導体の微小デバイス内における熱励起雑音の評価には適した計測技術だとみている。
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