ポーライトと産業技術総合研究所(産総研)は、多孔質ステンレス鋼基板を支持体とする「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」を開発した。従来に比べ機械強度を高めたことで、自動車やドローンなどモビリティへの搭載が可能となる。
ポーライトおよび、産業技術総合研究所(産総研)極限機能材料研究部門 固体イオニクス材料グループの山口祐貴主任研究員、鷲見裕史研究グループ長は2023年12月、多孔質ステンレス鋼基板を支持体とする「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」を開発したと発表した。従来に比べ機械強度を高めたことで、自動車やドローンなどモビリティへの搭載が可能となる。
SOFCは、燃料電池の中で最も高い発電効率が期待され、国内では家庭用熱電併給(コージェネレーション)システムとして実用化されている。ただ、従来のSOFCは、電解質や燃料極を支持体としているため振動や熱衝撃に弱く、現状では用途が定置用に限定されていた。そこでポーライトと産総研は、これらの課題を解決するため、多孔質ステンレス鋼を支持体とする「金属支持SOFC」の開発に取り組んだ。
ポーライトはこれまで、粉末冶金技術を用いてSOFC用クロム基合金インターコネクターを開発、SOFCメーカーに供給してきた。また、金属支持SOFCの実現に向けて、多孔質金属基板の製造プロセスも確立してきた。これに用いる原料は、電解質材料のジルコニアと熱膨張係数が同程度のフェライト系ステンレス鋼である。ステンレス鋼粒子は粒径が約20〜50μmだが、基板表面の孔の大きさを約50μmから約10μmまで任意に制御すれば、さまざまな多孔質電極の積層に対応できる。基板全体の気孔率はいずれも約50%で、ガス拡散性も良好だという。
ただ、多孔質ステンレス鋼基板は、セラミックスに比べ耐熱性が低い。焼結温度が1000〜1200℃に下がると焼結不足で孔が空き、供給した燃料が空気側に漏れてしまうという課題があった。
こうした課題に対し産総研は、平均粒径が70〜150nmのジルコニア電解質ナノ粒子を開発。温度を下げても焼結を促進させることができるため、電解質内の貫通孔が激減し、ガスバリア性は向上した。この結果、供給した燃料を全て発電に用いることが可能となった。
今回は、ポーライトが開発した多孔質金属基板技術と、産総研が開発したSOFC製造プロセス技術を組み合わせることで、5cm角の金属支持SOFCを開発することに成功した。具体的には、テープ成形やスクリーン印刷などの湿式法を用い、多孔質ステンレス鋼基板の上に、ニッケル触媒と電解質から成る「燃料極」や、ジルコニア電解質、導電性セラミックスから成る「空気極」を積層した。なお、製造に当たっては、ステンレス鋼基板の酸化を抑えるために、低酸素分圧かつ、従来に比べ低温で焼結を行った。
研究チームは、電解質上に直径6mmの空気側電極を積層した金属支持SOFCを用い、550〜750℃における燃料電池特性を測定した。この結果、電解質ナノ粒子を添加したセルでは、電流密度0A/cm2における開回路電圧(OCV)が1V以上となり、750℃で0.6W/cm2の出力密度が得られることを確認した。
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