産業技術総合研究所(産総研)は、6G(第6世代移動通信)などで用いられるテラヘルツ波を99%以上吸収しながら、熱応答性も従来の2倍以上とした「テラヘルツ波吸収体」を開発した。吸収体はパワーセンサーの要素技術となるもので、吸収体の作製には3Dプリンターを用いた。
産業技術総合研究所(産総研)は2023年9月、6G(第6世代移動通信)などで用いられるテラヘルツ波を99%以上吸収しながら、熱応答性も従来の2倍以上とした「テラヘルツ波吸収体」を開発した。吸収体はパワーセンサーの要素技術となるもので、吸収体の作製には3Dプリンターを用いた。
6Gでは、高速かつ大容量の無線通信を可能にするため、テラヘルツ波(0.1T〜0.3THz)の利用が想定されている。この実現に向けて、対応する送受信機器などの開発が進む。同時に、光源の評価や検出器の校正を行うためのパワーセンサーも必要となる。
ところが、6Gで利用されるテラヘルツ波に対して、高い測定精度と高速熱応答性を両方備えたパワーセンサーは、これまでなかったという。そこで今回は、産総研の製造技術研究部門と物理計測標準研究部門が協力し、「高いテラヘルツ波吸収率」と「高速熱応答性」を両立させ、製造性にも優れるテラヘルツ波吸収体の開発に取り組んだ。
研究グループは、高いテラヘルツ波吸収率と高速熱応答性を両立させるため、スリットや空孔を設けた樹脂の中空ピラミッド構造を開発した。3次元構造にすることで、テラヘルツ波の反射率を小さくした。また、中空構造にすることで、熱容量も小さくできるという。ただ、樹脂の中空構造では吸収率や熱伝導率が低く、期待する特性は得られなかった。
そこで、構造体表面に厚み1〜100nmの金属薄膜を形成した。この金属薄膜を吸収層として利用すれば、樹脂の欠点である極めて小さい吸収率を補うことができるという。また、金属薄膜がテラヘルツ波を吸収すると熱エネルギーが発生し、金属薄膜では高速に温度が上昇。この結果、単なる樹脂中空構造体よりも熱応答性は向上する。
さらに、吸収体を作製するため、無電解めっき技術と3Dプリンターを活用した。これまで、テラヘルツ吸収膜にはニクロムなどの金属が用いられてきた。今回は、これらの金属よりも導電率が小さいニッケルリン無電解めっき膜を採用した。透過率や反射率、吸収率が最適になるよう、膜厚を調整しやすいからだという。中空ピラミッド構造と薄い金属膜を組み合わせた吸収構造を実現したことで、高い吸収率と高速熱応答性を両立させた。
研究グループは、開発した吸収体と従来の吸収体の性能を比較した。ガラスを母材とする吸収体(市販品平面型)や樹脂を母材とする吸収体(従来品平面型)を実装したテラヘルツ波パワーセンサーは、平均吸収率が50%程度となるため、精度が低下する。3次元構造の従来品は、極めて高い吸収率となり精度は高いものの、温度上昇時間は長くなる。これに対し、開発した3次元中空構造吸収体は、吸収率が99%以上で、温度上昇速度は従来品に比べ2倍以上を達成した。
吸収体の作製に3Dプリンターを用いたことも大きな特長である。吸収体の大面積化が容易であり、湾曲や円筒、球面といったさまざまな形状を作製できる。これによって、特定の方位から伝搬するテラヘルツ波を効率よく検出できるという。
今回の研究成果は、産総研製造技術研究部門の桑野玄気研究員や穂苅遼平主任研究員、栗原一真研究主幹および、物理計測標準研究部門の東島侑矢研究員、木下基研究グループ長らによるものである。
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