東北大学は、スピン移行トルク磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)の記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)素子の特性を、用途に合わせてカスタマイズできる材料・構造技術を確立した。記録層に用いる材料の膜厚や積層回数を変えると、「高温でのデータ保持」はもとより「データの高速書き込み」にも対応できるという。
東北大学電気通信研究所の五十嵐純太学術研究員(当時)、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の陣内佛霖助教(当時)、深見俊輔教授および、大野英男教授(現総長)らによる研究グループは2024年1月、スピン移行トルク磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)の記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)素子の特性を、用途に合わせてカスタマイズできる材料・構造技術を確立したと発表した。記録層に用いる材料の膜厚や積層回数を変えると、「高温でのデータ保持」はもとより「データの高速書き込み」にも対応できるという。
不揮発性メモリは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)機器から車載システムまで、さまざまな用途で用いられている。特に、微細な先端プロセスを用いたSTT-MRAMは、高温でも高いデータ保持性能があり、車載向け半導体への採用が決まるなど、需要が拡大する。一方、AI/IoT機器では、高速のデータ書き込み特性や高い書き換え耐性が求められており、用途に応じた特性を実現する必要がある。
MTJ素子の記憶層は、酸化マグネシウム(MgO)層でコバルト鉄ホウ素(CoFeB)層を挟んだ構造となっている。研究グループはこれまで、CoFeB/MgO界面由来の垂直磁気異方性を用いた素子や二重界面構造の開発を行ってきた。また、MTJ素子のさらなる微細化に対応できる技術を開発し、「高温での高いデータ保持」や「数ナノ秒の高速動作」を実現してきた。
そして今回、CoFeB/MgO材料系を用いた直径数nmのMTJ素子で、用途に応じた特性を実現するための材料・構造技術を確立した。具体的には、CoFeB/MgO積層磁性層構造において、「CoFeB層の膜厚」と「MgO挿入層の数(積層回数)」を変えることで、界面異方性と形状異方性を独立に制御した。
CoFeB層膜厚を直径より厚くすれば、形状磁気異方性が支配的に作用し、高温でのデータ保持特性に優れた素子を実現できるという。一方、CoFeB層を薄くして積層回数を増やせば、界面磁気異方性が支配的に作用するため、データの高速書き込みが可能となる。
作製したMTJ素子を用い、データ保持特性と書き込み特性を評価した。形状磁気異方性が支配的な構造ほど、スケーリング指数が小さくなることが分かった。これはデータ保持特性における温度依存性が小さいことを示すものだという。つまり、車載用途向けは、形状磁気異方性が支配的な構造ほど適していることになる。作製した直径7.6nmの素子では、150℃の温度環境でも高いデータ保持特性を示した。
これに対し、界面磁気異方性が支配的な構造ほど緩和時間が短く、データの高速書き込みが可能なため、AI/IoT用途に適していることが分かった。作製した直径4.5nmの素子は、比較的高いデータ保持特性を保ちながら、1V以下/10ナノ秒の電圧パルスで、データの書き換えが行えることを確認した。シミュレーションの結果によれば、材料や構造を変えると、1V以下/1ナノ秒の電圧パルスで、データを書き換えることが可能なことも分かった。
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