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生産強化か将来技術か 半導体補助金政策からみる各国の戦略日本は「バランスの良さ」が特徴

半導体関連技術の総合展示会「SEMICON Japan 2023」にて、「世界の半導体補助金政策動向」と題した講演が行われた。本稿ではその中から、KPMG FAS Markets & Innovation 執行役員パートナーの岡本准氏の講演内容を紹介する。

» 2024年01月18日 14時30分 公開
[浅井涼EE Times Japan]

 半導体関連技術の総合展示会「SEMICON Japan 2023」(2023年12月13〜15日、東京ビッグサイト)にて、「世界の半導体補助金政策動向」と題した講演が行われた。KPMG FAS Markets & Innovation 執行役員パートナーの岡本准氏は「補助金政策動向から読み解く世界の半導体国家戦略」として、各国の半導体補助金政策の動向を紹介し、戦略を分析した。

米国は生産基盤の強化に注力

KPMG FAS Markets & Innovation 執行役員パートナーの岡本准氏 KPMG FAS Markets & Innovation 執行役員パートナーの岡本准氏 出所:SEMICON Japan

 米国は、材料/製造装置など、生産基盤を強化することに注力している。2021年1月に成立した「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)for America」(CHIPS法)では、半導体製造などへの設備投資を行う事業者に対して、申請1件あたり最大30億米ドルを補助する枠組みを設けたほか、2022年8月成立の「CHIPS and Science Act」(CHIPSプラス法)では設備投資額の25%を税額控除の対象にした。また、先端パッケージ研究にも補助を行っていて、岡本氏は「Intelの先端パッケージング技術である『EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)』などを加速させる意味合いが強いのではないか」と分析した。

中国/インドは大規模予算が特徴、インセンティブ制度も

 中国の補助金政策の特徴は「なんと言ってもスケールが大きい」(岡本氏)ことだ。中国は政府系半導体ファンド「国家集成電路産業投資基金」を運営していて、2014年に設立した1号ファンドは1387億元(約2.9兆円)、2019年の2号ファンドは2040億元 (約4.2兆円)を調達した。さらに大規模な3号ファンドの設立も予定されているという。一部報道ではこれに加え、さらに、1兆元(約20.5兆円)規模の支援も計画中だとされている。他に、中国に特徴的な制度として、半導体製造工場の売上高に応じてさらに補助金をつけるというインセンティブの仕組みもある。中国の半導体補助金政策は金額のあまりの大きさから、汚職や使途不明金の発生も懸念されているという。

 現状でほとんど生産基盤を持たないインドは、補助金を全て製造基盤の確立にフォーカスし、「中国以上にアグレッシブな政策」(岡本氏)を行っている。インドは外資を誘致することに注力していて、政府の負担割合が大きい。半導体製造工場の事業費にはインド政府が最大50%、さらに州政府が10〜25%を支援する制度があり、事業者は手元に2〜3割の資金があればよいという形になっている。また中国同様、生産高の増加に連動して補助金を増額する制度も導入するなど、「生産基盤を整えるために、やれることは全て徹底的にやっている」(岡本氏)状況だ。

台湾/韓国は将来に投資

 台湾は生産基盤が既に整っているため、将来技術や人材育成に対する補助金が中心となっていて、金額も他国に比べ小さい。将来技術としてはÅ(オングストローム/0.1nm)世代の半導体製造プロセスの発展を目標とし、人材育成に関しては半導体関連人材を毎年1万人増やしていくことを目指している。岡本氏は「現在、台湾には半導体産業に従事する人材が約4万人いる。毎年1万人というのはとんでもない規模感だ」と語った。

 生産基盤の整っていない国々にとっては「いかに台湾の技術を誘致するか」がポイントになるため、「米国やEU、日本の補助金の予算のうち、10〜30%程度は台湾企業の誘致に使われる」(岡本氏)という。

 韓国も補助金の金額は大きくない。台湾同様、生産基盤が出来上がっているため、PIM(Processing-in-Memory)の研究開発向けに予算を確保するなど、将来技術の開発に注力している。韓国は戦略を細かく立てていることも特徴で、2021年には「K-半導体戦略」を打ち出し、「2030年に世界最大の半導体供給網『K-半導体ベルト』を構築する」という目標を掲げた。

欧州は半導体世界シェア20%を目指し予算を確保

 欧州も生産基盤の強化に注力する。EUは2023年4月、官民で計430億ユーロを投じる法案で合意していて、2030年までに半導体製造の世界シェアを現在の約10%から20%まで引き上げることを目標としている。岡本氏は「金額の規模は大きいものの(施策の内容は)抽象的で、戦略が練られていない部分が見受けられるため、遅れが出るのではないか」と分析した。

日本はバランス戦略

 日本の戦略については、岡本氏は「非常にバランスの良い戦略」と見る。生産基盤を確実にするため、RapidusやJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)、Micron Technology、キオクシアなどの工場建設や設備投資への補助を行いながら、光電融合技術などの次世代技術にも投資している。

 岡本氏は各国の補助金動向を俯瞰し、各国が台湾企業の誘致に熱心なことから「米中対立という言葉が強調されがちだが、実は台湾が大きな影響力を持っている」と総括した。

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