磁気メモリの高集積化を可能にする技術 東北大らが開発 : らせん磁性体のマンガン金合金を利用
東北大学と東邦大学の共同研究グループは、らせん磁性体のねじり方向「キラリティー」を室温で制御/検出できる、「マンガン金合金(MnAu2)薄膜」を開発した。ビット間干渉がなく高集積かつ堅固な磁気メモリを実現することが可能となる。
東北大学金属材料研究所の増田英俊助教や関剛斎教授、小野瀬佳文教授と、東邦大学の大江純一郎教授らによる共同研究グループは2024年3月、らせん磁性体のねじり方向「キラリティー」を室温で制御/検出できる、「マンガン金合金(MnAu2 )薄膜」を開発したと発表した。ビット間干渉がなく高集積かつ堅固な磁気メモリを実現することが可能となる。
磁気抵抗メモリ(MRAM)などのスピントロニクス素子は、強磁性体の磁化方向によって情報を記憶できるため、不揮発性や低消費電力といった特長がある。ただ、周囲に発生する磁場の影響で、磁石同士が相互作用し、ビット間で干渉が起こる。このため、高集積化が難しいといわれてきた。
研究グループは今回、らせん方向の自由度がある「らせん磁性体」に着目した。強磁性体とは異なり、各磁気モーメントがつくる磁場が打ち消しあい、全体として周囲に磁場が発生しないため、高集積化が可能である。半面、磁場をつくらないことで、キラリティーの書き込みや読み出しが難しいとされてきた。
上段は強磁性体における磁化の自由度。下段はらせん磁性体におけるキラリティー自由度[クリックで拡大] 出所:東北大学、東邦大学
らせん磁性体の中で注目したのは、室温で安定しているマンガン金合金「MnAu2 」である。実験で高品質の MnAu2 単結晶薄膜を作製することに成功した。これに室温かつ弱い磁場中で電流パルスを印加したところ、キラリティー(右巻き、左巻き)を繰り返し反転できることが分かった。
また、MnAu2 と白金(Pt)の2層デバイスにおいて、キラリティーを電流と垂直方向の電圧として検出することに成功した。この方法を用いると、磁場がなくてもキラリティーを検出できることが分かった。これらの結果から、らせん磁性体のキラリティーメモリは、室温かつ簡便な方法で書き込みや読み出し操作ができることを実証した。
左図は実験に用いたMnAu2 単結晶薄膜デバイス。右図は電流パルスによるキラリティーメモリの書き込みと読み出し[クリックで拡大] 出所:東北大学、東邦大学
MnAu2 とPtの2層デバイスにおけるキラリティー検出[クリックで拡大] 出所:東北大学、東邦大学
次世代メモリ材料における水素の拡散運動を解明
東北大学らの研究グループは、素粒子「ミュオン」を用いて、二酸化バナジウム(VO2)における水素の拡散運動を解明したと発表した。研究成果は高密度の抵抗変化型メモリ(ReRAM)開発につながる可能性が高いとみられる。
トポロジカル磁気構造を「作り分け」 超低消費電力デバイスの実現へ
東北大学と独マインツ大学による共同研究チームは、人工反強磁性体を用いて、「メロン」や「アンチメロン」「バイメロン」と呼ばれるトポロジカル磁気構造を作り分けることに成功した。反強磁性トポロジカル磁気構造を用い、電力消費が極めて少ないデバイスを実現することが可能となる。
東京大ら、磁気振動の情報を取り出す測定法を開発
東京大学と東北大学の研究グループは、磁石の中に隠れていた磁気振動の情報(コヒーレンス)を発見し、その情報を取り出すことに成功した。新たな磁気情報デバイスの開発につながるとみている。
東北大学ら、スピン波が伝わる方向を自在に制御
東北大学と信越化学工業の研究グループは、「二次元マグノニック結晶」という周期構造体を開発し、スピン波の伝わる方向を制御することに成功した。情報伝達にスピン波を用いれば、低消費電力で高集積化が可能な次世代デバイスを実現できるという。
量子アニーリングマシンとMLを活用、新規化学材料の組成発見
東北大学の研究グループとLG Japan Labは、量子アニーリングマシンとベイズ的最適化と呼ばれる機械学習(ML)技術を連係し、これまで未探索であった目標特性値を持つ新規化学材料を発見した。今回の研究成果は、製造工程の最適化や生物分野などにも適用できるという。
東北大学、用途に合わせMTJ素子特性をカスタマイズ
東北大学は、スピン移行トルク磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)の記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)素子の特性を、用途に合わせてカスタマイズできる材料・構造技術を確立した。記録層に用いる材料の膜厚や積層回数を変えると、「高温でのデータ保持」はもとより「データの高速書き込み」にも対応できるという。
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