さらに、印加磁場をゼロにすると、熱伝導率は約25Wm-1K-1と高い値を維持した。この状態と初期状態との差は、約15Wm-1K-1となり、不揮発性MTSRは150%と見積もった。磁場印加方向を逆にしても高熱伝導率は維持され、ゼロ磁場では同じ値となることが分かった。Sn量を減らしたSn10-Pb90はんだを用いた実験では、約300%の不揮発性MTSRが観測された。
研究チームは磁化測定を行い、どの程度の磁束がトラップされているかも調べた。ゼロ磁場冷却の場合は、超伝導体特有の反磁性が転移温度以下で観測された。これに対し1500 Oeの磁場中で冷却した場合は、磁化の温度依存性が超伝導体の反磁性を示さず、大きな正の磁化が観測された。これは低温で500G以上の磁化が残り、Sn領域が300 Oe以上の磁場にさらされていることを意味するという。磁化の温度依存性は、磁石の強磁性転移付近の振る舞いと類似しており、磁場中に冷却したはんだが磁石になっていることが分かった。Sn領域の磁束トラップと超伝導状態の抑制も、比熱測定と磁気光学画像測定によって確認した。
今回の研究成果は、東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の水口佳一准教授や有馬寛人博士(研究当時は特任研究員、現在は産業技術総合研究所の研究員)、モハマドリアドカセム特任研究員、物質・材料研究機構(NIMS)磁性・スピントロニクス材料研究センターの世伯理那仁グループリーダー、安藤冬希特別研究員、内田健一上席グループリーダーおよび、東京大学物性研究所の木下雄斗特任助教、徳永将史准教らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.