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π型熱電変換モジュール、150℃の低温域でも高い変換性能工場や車体からの排熱を電気に

岡山大学らによる研究グループは、高結晶化したカーボンナノチューブ紡績糸(CNT紡績糸)を用いて作製したπ型熱電変換モジュールにおいて、150℃以下の低温域でも高い熱電変換性能を実現した。

» 2024年05月02日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

CNT紡績糸の高結晶化とn型ドーピングのプロセス開発で

 岡山大学らによる研究グループは2024年4月、高結晶化したカーボンナノチューブ紡績糸(CNT紡績糸)を用いて作製したπ型熱電変換モジュールにおいて、150℃以下の低温域でも高い熱電変換性能を実現したと発表した。

 工場や車体、人体などから排出される比較的低温の熱を、電気エネルギーに変換するための熱電変換素子が注目されている。低温域での熱電変換材料としてこれまで、Bi2Se3などの無機材料が検討されてきた。しかし、毒性や加工性、柔軟性の低さが課題となっていた。

 これに対しCNT紡績糸は、軽量かつ柔軟で人体適合性も高く、低温域での熱電変換が可能という特長がある。ただ、CNTの熱電変換特性は、従来材料に比べて低いという課題もあった。π型熱電変換モジュールを作製するには、n型とp型の熱電変換材料が必要となる。しかし、n型CNTにおける高い熱電変換性能は、これまで実証されていなかったという。

 研究グループは今回、最大3100℃という通電加熱処理によってCNT紡績糸を高結晶化した。さらに、n型ドーパント分子である「N-DMBI」を用い、分子ドーピングによる電子状態の制御を行った。N-DMBIのドーピング処理を最適化したことで、N-DMBIの溶媒がドーピングの効果に大きく影響し、o-ジクロロベンゼンが大きな負のゼーベック係数を得るための最適な溶媒であることを突き止めた。

N-DMBIドープCNT紡績糸の作製プロセス。左はCNTアレイからの乾式紡績、中央は通電加熱処理、右はN-DMBIドーピング N-DMBIドープCNT紡績糸の作製プロセス。左はCNTアレイからの乾式紡績、中央は通電加熱処理、右はN-DMBIドーピング[クリックで拡大] 出所:岡山大学他

 今回開発したCNT紡績糸は、室温付近の30℃で1534μW/mK、200℃で2800μW/mKという高い発電性能(パワーファクター)を実現した。2カ月経過した後でも、N-DMBIを用いたCNT紡績糸の発電性能は4%しか低下せず、高い安定性を示すことが分かった。

 さらに、無次元性能指数(ZT)を評価した。発電性能の向上と熱伝導率の低下によって、CNTは高いZT(〜1.7×10−2)を有することが分かった。これらの技術を応用してπ型熱電変換モジュールを作製し、低温域で電力を取り出せることを確認した。

上段はIG/ID(Gバンド強度/Dバンド強度)の通電加熱温度依存性と、N-DMBIドープCNT紡績糸の発電性能の温度依存性。下段は発電性能の大気安定性と、各処理のCNT紡績糸のZT 上段はIG/ID(Gバンド強度/Dバンド強度)の通電加熱温度依存性と、N-DMBIドープCNT紡績糸の発電性能の温度依存性。下段は発電性能の大気安定性と、各処理のCNT紡績糸のZT[クリックで拡大] 出所:岡山大学他
左はCNT紡績糸を用いたπ型熱電変換モジュールの模式図と外観。右はπ型熱電変換モジュールの出力特性 左はCNT紡績糸を用いたπ型熱電変換モジュールの模式図と外観。右はπ型熱電変換モジュールの出力特性[クリックで拡大] 出所:岡山大学他

 今回の研究は、岡山大学大学院自然科学研究科の亀高諄大学院生(現在はローム)と岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(工)の鈴木弘朗研究准教授、西川亘助教、林靖彦教授らが、東京工業大学のSergei Manzhos准教授や中国Southern University of Science and TechnologyのAung Ko Ko Kyaw准教授らと共同で行った。

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