理化学研究所(理研)と東京大学の国際共同研究グループは、室温で反強磁性体にナノ秒のパルス電流を印加すると、反強磁性体中の磁壁を高速駆動できることを実証した。磁気シフトレジスタに反強磁性体を用いれば、強磁性体やフェリ磁性体を用いた場合に比べ、1桁以上も高速に駆動できる可能性があるという。
理化学研究所(理研)と東京大学の国際共同研究グループは2024年6月、室温で反強磁性体にナノ秒のパルス電流を印加すると、反強磁性体中の磁壁を高速駆動できることを実証したと発表した。磁気シフトレジスタに反強磁性体を用いれば、強磁性体やフェリ磁性体を用いた場合に比べ、1桁以上も高速に駆動できる可能性があるという。
研究グループは今回、特殊なバンド構造を有するワイル磁性体のカイラル反強磁性体(Mn3SnおよびMn3Ge)に着目した。反強磁性体でありながら、強磁性体のように磁化状態を電気的、光学的に検出することができるからだ。
実験では、集束イオンビームを用い、カイラル反強磁性体(Mn3SnおよびMn3Ge)単結晶をマイクロメートル線幅に加工した。反強磁性細線中に磁壁を設け、反強磁性細線の長手方向にナノ秒のパルス電流を印加した。
そこで、磁気光学カー効果による磁気イメージング法を用い、磁壁の位置が移動することを確認した。観測した磁壁の移動方向はパルス電流と逆方向となり、強磁性体で報告されてきたスピン移行トルクによる駆動方向と同じであった。
磁壁移動速度の電流密度依存性を調べた。この結果、強磁性体と比べ約2桁高い磁壁移動度(単位電流密度当たりの駆動速度)となることが分かった。このことは強磁性体に換えてカイラル反強磁性体を用いれば、低消費電力で高速駆動が可能になることを示すものだという。
また、反強磁性体はカゴメ格子面(カゴメ面)内が磁気モーメントの向き易い磁化容易面となっており、拡張磁気八極子はカゴメ面内で回転する。このため、反強磁性細線を作製する時に、切り出す結晶方位を選択すれば、異なる磁壁構造にすることができる。磁壁移動速度の磁壁構造依存性を調べたところ、ネール磁壁がブロッホ磁壁よりも高速電流駆動することが分かった。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター量子ナノ磁性チームのミンシン・ウー大学院生リサーチ・アソシエイト(研究当時)、近藤浩太上級研究員、大谷義近チームリーダー、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻のタイシー・チェン特任研究員(研究当時)、肥後友也特任准教授、中辻知教授、東京大学物性研究所ナノスケール物性研究部門の一色弘成助教、量子物質研究グループの冨田崇弘特任助教(研究当時)ら、国際共同研究グループによるものである。
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