スピン整流器を開発、微弱な電波でも効率よく発電:Wi-FiやBluetoothの電波を利用
東北大学は、シンガポール国立大学や、メッシーナ大学(イタリア)と共同で、ナノスケールの「スピン整流器」を開発し、微弱な無線通信用電波から効率よく電力を生み出す原理実証実験に成功したと発表した。
東北大学電気通信研究所の深見俊輔教授と先端スピントロニクス研究開発センターの大野英男教授らは2024年8月、シンガポール国立大学のHyunsoo Yang教授、メッシーナ大学(イタリア)のGiovanni Finocchio教授らと共同で、ナノスケールの「スピン整流器」を開発し、微弱な無線通信用電波から効率よく電力を生み出す原理実証実験に成功したと発表した。
Wi-FiやBluetoothなどの無線通信では、高周波(RF)の電波を用いてデータの送受信を行う。この電波を用いて発電し、エッジ端末を駆動すれば電源供給や電池の交換が不要となる。ただ、こうした無線通信に用いられる微弱な電波から、大きな電力を取り出すことは極めて難しかったという。
開発したスピン整流器は、CoFeB(コバルト・鉄・ホウ素)とMgO(酸化マグネシウム)からなる磁気トンネル接合で構成されている。特に今回は、高いRF-DC変換効率が得られるように、磁気トンネル接合の形状や磁気異方性、トンネル障壁の特性などを考慮して設計した。
この結果、作製した単体のスピン整流素子では−62dBm(630pW)から−20dBm(10μW)のRF入力に対し、10000mV/mW程度の効率でDC電圧を取り出した。また、10個のスピン整流素子を直列接続した場合、−50dBm(10nW)のRF入力から、34500mV/mWの効率でDC電圧に変換することができたという。
さらに研究チームは、10個のスピン整流素子を直列接続したデバイスを用いて実験した。強度が−27dBm(2.0μW)という電波で発電し、この電力で市販品の温度センサーを駆動することに成功した。研究チームは実験結果と数値計算を比較し、今回得られた特性が、「電圧によって磁気異方性が変化する現象を介した自己パラメトリック励起に由来している」ことを突き止めた。
無線通信用のRF信号を用いた環境発電のイメージ図[クリックで拡大] 出所:東北大学他
左が作製したスピン整流器の模式図とSEM写真。中央が作製したスピン整流器の電力・電圧変換効率の入力電圧依存性。右が環境発電の模擬実験の様子[クリックで拡大] 出所:東北大学他
研究チームは今後、単体素子レベルでRF-DC変換効率のさらなる向上や、オンチップアンテナとの集積化、素子の直列・並列接続併用による大出力化などに取り組む予定。
- 6G向けに3次元バルクメタマテリアルの屈折率特性を向上
東北大学の研究グループは、2層スプリットリング共振器を3次元的に不規則配置した「3次元バルクメタマテリアル」を開発した。6G(第6世代移動通信)に向けたメタマテリアルとして、屈折率特性をさらに向上させた。
- 高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を簡便に予測
東北大学は、英国サリー大学やノッティンガム大学と共同で、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を解析的に表現する手法を開発した。この手法を用いることで、複雑で時間を要する数値シミュレーションやコスト高となる実験を行わなくても、高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を予測できるという。
- 基板の表面処理で2次元半導体の電荷制御に成功
東北大学とNTT物性科学基礎研究所は、表面処理を施した3次元半導体に2次元半導体を積層することで、2次元半導体から3次元半導体への電子移動効率を向上させるとともに、2次元半導体の電荷状態を制御することに成功した。
- 安価にキャパシター容量を向上させる電極を開発
東北大学とAZUL Energyらによる研究グループは、鉄アザフタロシアニン(FeAzPc-4N)を活性炭にまぶし、分子レベルで吸着させたキャパシター用電極を開発した。この電極を用いれば、ナノ炭素を用いるスーパーキャパシター並みの容量を安価に実現できるという。
- 量子ビット制御超伝導回路を提案、原理実証に成功
産業技術総合研究所(産総研)は、横浜国立大学や東北大学、NECと共同で、大規模量子コンピュータに向けた量子ビット制御超伝導回路を提案し、原理実証に成功した。1本のマイクロ波ケーブルで1000個以上の量子ビットを制御することが可能となる。
- 超伝導の性質を示す岩塩型酸化ニオブを合成、転移温度は最高7.4Kに
東北大学の研究グループは、東京大学と共同で岩塩型NbO(酸化ニオブ)の合成に成功した。得られた岩塩型NbOは超伝導の性質を示し、転移温度は最高7.4Kであった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.