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「欧州半導体法」で主導権争いに加わるEU 世界シェア20%を目指す工場建設も続々(2/4 ページ)

» 2024年09月19日 11時30分 公開
[Filippo Di GiovanniEE Times]

 欧州半導体法と米国のCHIPS法(CHIPS and Science Act)を比較すると、欧州の目的が一段と明確になる。

 米国のCHIPS法は、目標とリソース全体の観点から見ると欧州半導体法とよく似ているが、米国と欧州では戦略的優先順位や政府システム、経済状況などが異なることから、いくつかの違いが生じている。いずれも、2030年までに半導体生産能力におけるシェアを、米国が30%、欧州が20%とそれぞれほぼ倍増させることを目指しているが、欧州では、各カテゴリーで初めてとなる工場プロジェクトへの政府の資金提供を奨励しているのに対し、米国のCHIPS法はそうした制約を課していない。むしろ、米国CHIPS法は工場の建設/修復/拡張に対して広く補助金を提供しようとしている。また米国は、投資や製造を奨励するために税制優遇措置を講じているという点でも欧州とは異なる。米国では、半導体製造装置/工場への投資に対して25%の税額控除を提供する。

成熟ノードの支援は手薄か

 さらに注目すべきは、米国CHIPS法が成熟ノード向けに20億米ドルの予算を充てているのに対し、欧州半導体法は旧技術を適用した半導体に対して特別な経済的支援を何も提供していないという点だ。米国CHIPS法は、こうした決断による副次的な結果として、2023〜2027年の「米国労働力/教育CHIPS基金(CHIPS for America Workforce and Education Fund)」向けに2億米ドルを充てている。この資金は、半導体業界の熟練技術者の慢性的な不足に対応するためのものだ。欧州半導体法は、技術者不足の問題に取り組み、人材を誘致し、有資格技術者の育成を支援していくと明言しているが、明確な資金提供の枠組みについては提示していない。

 米国政府は半導体製造/研究に527億米ドルの資金を充て、一方で欧州半導体法は、430億ユーロの官民投資を集める。EUは、既存のEU資金調達スキームで必要な資金提供をサポートできるため、欧州半導体法に基づいた新たな資金を提供することはない。

 どちらの法も、国内/域内の半導体製造を強化し、海外サプライヤーへの依存度を下げることを目指している。しかし、米国のCHIPS法では国家安全保障と中国に対する経済的競争が非常に重要視されている。つまり米国の手法は、「バイ・アメリカン法(Buy American Act)」のような明確な措置を講じるなど、より保護貿易主義的だといえる。これに対して欧州半導体法は、欧州内および国際的なパートナーたちとの協業によって、基準やベストプラクティスを確立していくことに重点を置いている。

 欧州には既に、Infineon Technologies(Infineon)やSTMicroelectronics(ST)、NXP Semiconductors、X-Fab、Nexperia、Soitecなどの世界クラスの半導体メーカー、装置メーカー各社の拠点がある。

 オランダに本社を置くASMLは、ウエハー工場向けの最先端リソグラフィ装置を製造する。同社のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置(波長13.5nm)は、世界各国の大規模ファウンドリーで広く使われている。 ASMLの最新の高NA(開口数)EUVリソグラフィ装置「TWINSCAN EXE:5000」は、CD(Critical Dimension)8nmを実現するという。これによって顧客はトランジスタ密度を従来の2.9倍に高められる。欧州が野心的な投資政策を展開しているのは、こうした力強い背景があるからだ。

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