2つ目の課題は、EDAツールを使いこなすことだ。プロセスの進化に伴い、ツールやサインオフ条件などは複雑化している。これらのツールを使いこなすことが必要だが、そのためにはEDAベンダー本社との密なコミュニケーションが欠かせない。日本法人に問い合わせても、結局は本社への問い合わせが必要になるケースも多いからだ。だが、日本のエンジニアは、グローバルでのやりとりにはどうしても弱くなると浜崎氏は述べる。「EDAベンダーやIP(Intellectual Property)ベンダーとやりとりしようとすると、インド人と仕事をする必要が出てくる、といった構造になることが多い。(設計に関わる)専門知識に加えて、英語力、交渉力が必要になる」(同氏)
3つ目の課題はチップサイズの増大化だ。EDAツールで扱えるチップの規模には上限がある。そのため、合成、DFT(Design for Testability)、レイアウトといった階層ごとにエンジニアをアサインしなくてはならなくなっている。特に、開発期間が短い場合、大量のエンジニアが必要になるが、合成からレイアウトまでのスキルを持ったエンジニアは大幅に不足していると、浜崎氏は述べる。
同社の推計によれば、日系半導体企業では約3万人のエンジニアが不足しているという。とりわけ確保が難しいのが、アーキテクチャ設計やIPなどの新規技術導入に携わることができる高度人材だ。物理設計やハード/ソフトの検証を行うコアなエンジニアも不足している。
こうした課題に対し、Quest Globalはローカル・グローバルモデルを活用し、エンド・ツー・エンドでサポートする。主に北米、欧州、アジアで採用したハイスキル人材を活用し、顧客の戦略やニーズに合わせたアウトソーシングサービスを提供する。サービスの形式も、人材派遣、請負、共同開発プロジェクトなどがある。浜崎氏は事例として、MRI機器向けのカスタムSoC(System on Chip)や、AIチップの開発などを挙げた。なお、Quest Globalは基本方針として、IP投資の保護を掲げているという。「(開発した)IPは100%、顧客に保有してもらう。顧客とは競合しない方針だ。製品開発は非常にセンシティブなもの。当社のこの方針が、顧客がわれわれを選択する理由にもなっているのではないか」(浜崎氏)
Quest Global自身も、サービスの持続的な提供に向けエンジニア育成を強化する。今後4年間で、約6000人の半導体エンジニアを育成する予定だ。ソリューションや人材確保に向けM&Aも積極的に行っていて、過去数年では2022年にはインドAdept Chips、米Synapse Design、2024年には米People Techを買収した。
日本法人も人材確保に力を入れる。現在の450人から、2000人に増やすことを目指す。浜崎氏は「技術の難易度は上がる一方で、ローカル(国内)のエンジニアは減っていく。日本の半導体産業におけるこうした事態を解消できるような、持続可能なソリューションを提供していくのがわれわれの役目だ」と強調した。
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