産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構は、弾性波フィルターに用いられる窒化物圧電材料の性能を大きく向上させることに成功した。圧電定数を35.5pC/Nまで高めたことで、より高い周波数帯域に対応した弾性波フィルターを開発できるとみている。
産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構は2025年1月、弾性波フィルターに用いられる窒化物圧電材料の性能を大きく向上させることに成功したと発表した。圧電定数を35.5pC/Nまで高めたことで、より高い周波数帯域に対応した弾性波フィルターを開発できるとみている。
スマートフォンなどの無線通信機器に使われる周波数フィルターの一種である弾性波フィルターには、圧電材料が用いられる。より高い周波帯域に対応した弾性波フィルターを実現するには、圧電薄膜の性能向上が不可欠となる。現在、圧電材料として一般的に用いられているのは、窒化アルミニウム(AlN)にスカンジウム(Sc)を添加したScAlN薄膜である。
第一原理計算を用いたシミュレーションによれば、AlNに60〜70mol%のScを固溶させた場合、ScAlNの圧電定数は純粋なAlNに比べ、最大で10倍以上になると予測されている。ところがScはAlNに混ざりにくく、Scを高濃度でAlNに固溶するのが難しかった。
産総研はこれまで、デンソーと共同で高い圧電性能を持つScAlNの薄膜を開発してきた。そして今回、ScAlN薄膜を作製する際に、ScAlNと同じ結晶構造を持つルテチウム(Lu)金属を下地層として導入し、圧電性を有するウルツ鉱相の結晶性や配向性を高められるかどうかを検証した。
この結果、AlNへのSc固溶量は50.8mol%まで向上した。これまで予想されていた最大値の43mol%を大幅に上回った。作製した薄膜の断面組織を電子顕微鏡で観察したところ、下地層としてLuを導入したScAlN薄膜では、ウルツ鉱構造の結晶性や配向性が向上していることを確認した。
これらの薄膜について圧電定数を測定した。その値は35.5pC/Nとなり、第一原理計算で予測された値に近かったという。他のAlN系圧電材料と比べても、最も高い圧電定数になることが分かった。
今回の研究成果は、産総研センシングシステム研究センターの平田研二主任研究員や秋山守人首席研究員、Anggraini Sri Ayu主任研究員、蔭浦泰資研究員、上原雅人主任研究員、山田浩志チーム長および、物質・材料研究機構の新津甲大独立研究者らによるものである。
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