物質・材料研究機構(NIMS)は成蹊大学との共同研究により、リチウム空気電池の高出力化に成功した。カーボンナノチューブ(CNT)からなる高空隙の電極を開発したことで、出力電流を従来に比べ10倍も向上させた。
物質・材料研究機構(NIMS)は成蹊大学との共同研究により、リチウム空気電池の高出力化に成功した。カーボンナノチューブ(CNT)からなる高空隙の電極を開発したことで、出力電流を従来に比べ10倍も向上させた。この電池を小型ドローンに搭載すれば、長時間飛行が可能となる。
リチウム空気電池は、「リチウム」と空気中の「酸素」を使って発電および、充電を繰り返し行うことができる。エネルギー密度は現行のリチウムイオン電池に比べ約10倍も高く、軽量で大容量化が可能な二次電池として注目されている。ただ、これまでのリチウム空気電池は、電池反応が極めて遅く、微弱な電流しか取り出せないという課題があった。
研究チームはリチウム空気電池の出力特性改善に向け、負極にリチウム金属を、正極にカーボン電極を、それぞれ用いたリチウム空気電池を作製し、放電後のカーボン電極における酸素分布を調べた。この結果、電極内部には酸素がほとんど取り込まれておらず、反応が進んでいないことが分かった。
そこで今回、カーボン電極の高空隙化に取り組んだ。ここで注目したのはCNTで、効率よく酸素を吸収できるような電極構造を開発した。開発したカーボン電極は空隙率が90%を超えており、自立性と導電性にも優れている。これにより、高効率な酸素ガス吸収と放電反応が可能となった。
続いて研究チームは、電池反応を加速する電解液の設計を行った。アミド溶媒の電解液を用い、リチウム空気電池セルの内部抵抗を調べた。これにより、電解液中の酸素に対し、拡散輸送にかかる抵抗が大きな抵抗成分となっていることを突き止めた。そこで、粘度が低いアミド溶媒をベースに電解液を設計したところ、セルの内部抵抗を抑えて出力電流を大幅に増やすことができたという。
研究チームは、開発した高空隙カーボン電極と低粘度アミド電解液を用い、リチウム空気電池を試作した。ここでは、カーボン電極の上に薄いガス拡散層を設け、ガス拡散層の断面方向から酸素ガスを交換する電池構造とした。電解液の揮発を抑える構造としたことで、長時間の電池試験が可能となった。
試作したリチウム空気電池を用い、充放電リサイクル試験を行った。この結果、最大500Wh/kgというエネルギー密度を実現しながら、出力密度を最大500W/kgまで向上させることができた。この出力密度は、従来のリチウム空気電池に比べ約10倍である。
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